連作『If…』
第1話 「もし… ユジンが居眠りをしなかったなら…」
冷え切った身体が、少しずつ温まってきていた。
かすかなバスの揺れが、まるで揺りかごのように心地よい…。
ユジンは、ともすれば目蓋ががふさがりそうになるのを耐えていた。
ヒジンの朝食の用意で、毎朝早起きが続いている。
寒いこの季節は、布団から出るのも辛かった。
しかし、眠ってはいけない。
この頃遅刻もしなくなったのだ。
『遅刻魔』という、有り難くもない渾名ともおさらばしなければ…。
あくびをかみ殺しながら、ユジンはひたすらまばたきを繰り返していた。
隣の席に、見知らぬ少年が座ったことにも気づかずにいた。
ようやく学校のそばのバス停が近づいた。
ユジンは、荷物を持って降りる準備を始めた。
バス内は、まだかなり混雑している。
(…今日の美術は何を描こうかな…)
手にした画材の鞄を撫でながら、ユジンは思った。
父の形見の鞄でもあった。
そろそろ…と思って、ユジンが立ち上がった時、隣の少年も同時に立ち上がった。
「…あ!」
互いの足が交差して、思わず転びそうになった。
手にした鞄も床に落としてしまった。
鞄の中から、絵筆や絵の具がこぼれ、あたりに散乱した。
「…大変! …あ、踏まないで!
…すいません、ちょっと… ごめんなさい…。」
ユジンは、乗客の足元に転がった絵の具のチューブを拾い集めた。
絵の具の値段も馬鹿にならないのだ。
(…え~っと… あとは… 白?
…白… どこへ行っちゃったんだろう…)
ユジンは床に這うようにして探した。
バスの座席の下にはなさそうだ。
ふと、目の前に立っている学生服の足に気づいた。
その靴の下に白い色が見えている。
顔を上げると、そこに見知らぬ高校生が、じっとこちらを見つめて立っていた。
「ちょっと… この足どけてよ。」
そうユジンが言うと、その少年は黙って足を上げた。
「…あ~ぁ… もう…こんなになっちゃって…」
少年の足の下からは、踏みつぶされた白い絵の具のチューブが出てきた。
「もう! どうしてくれるのよ!」
ユジンは少年を怒鳴った。
「………。」
少年は、ティッシュで靴底に付いた絵の具を拭きながら、ユジンを睨むように見ている。
ユジンも、それ以上は何も言えなくなった。
はっと気がつくと、すでにバスは見知らぬ道を走っている。
降りるべきバス停はとうに過ぎてしまっていた。
「停めて~!」
ユジンは、運転士に大声で言った。
バスは、急停止した。
ユジンは、急いでバスを降りた。
そして、あの少年も…。
「…いったいどこまで来ちゃったんだろう…」
あたりを見渡すと、そこは春川湖のほとりだった。
少年も、あたりを見渡している。
「あなたのせいよ!
もっと気をつけてよ!」
ユジンは、ため息をついて言った。
少年は、相変わらず黙ってこちらを見ている。
ユジンも、見覚えのない相手の様子が気になり始めた。
姿を見ると、同じ高校の生徒らしい。
「…あなた… 何年生?」
「…2年…。」
(…なんだ、同級生なんだ…)
それなら、あのカガメールの怖ろしさも知っているはずだ。
「カガメールが怖くないの?
…あなたみたいな図太い人、初めてよ。」
そう言って、ユジンはまたため息をついた。
この分じゃ、タクシーででも行かないと遅刻してしまう…。
朝の飼育当番はサンヒョクがひとりでやってくれてるだろうけど…。
「…早く! タクシーに乗るわよ!」
ユジンは少年に声をかけた。
「………。」
少年は、黙ったままゆっくりとついてきた。
そののんびりした様子に、ユジンは不思議な気持ちになった。
遅刻を気にして苛立つ自分が、なんだか情けなく感じ始めていた。
(…いけない、いけない!
とにかく急がなきゃ…)
道を走る車の中に、タクシーを探しながら、ユジンは後ろを振り返った。
冷たい冬の風に吹かれ、どこか寂しげな少年の横顔がそこにあった。
-了-
あとがき
新シリーズは、サイドストーリーではなく『バックストーリー』かな?
冬ソナに『もしも…』は許されないのかもしれませんが、あえて書いてみようかと。
冬ソナに『もしも…』は許されないのかもしれませんが、あえて書いてみようかと。
まずは『出会い』の場面から。
結局、彼らはこうして出会う運命だったと…そういう結論です。
結局、彼らはこうして出会う運命だったと…そういう結論です。
このシリーズ…
できれば「連作」で書きたいなあと思っていました。
もしも参加してくれる方がおられるなら、ぜひ!
題材はたくさんありますからね。
できれば「連作」で書きたいなあと思っていました。
もしも参加してくれる方がおられるなら、ぜひ!
題材はたくさんありますからね。
さっそく『If…』の第2話のエントリーがありました。
ご存じ、うさこさんです。
なるほど…と感心しながら読みました。
コロッケパン…が、またうれしく感じました。
コロッケパン…が、またうれしく感じました。
では… 第2話 「もし・・・・塀を越えたのが1回じゃなかったら・・・。」 by うさこ さん
第3話は、あとむままさんのエントリーです。
山小屋へのクリスマス・キャンプのあの場面。
これも「もしも…」と考えてしまう場面ですね。
ラストの場面がいいですね…。
これも「もしも…」と考えてしまう場面ですね。
ラストの場面がいいですね…。
第3話 『もしも迷子になったのがチェリンだったら・・・』 by あとむまま さん
第4話
「もし…ユジンを見つけたのがチュンサンでなかったら…」(前編)
「ユジンがいないのよ…。」
チンスクの言葉に、チュンサンの顔色は変わった。
(もしかしたら… 僕が、あんなふうに言ったから…?)
「とにかく探してくる。
30分経ったら一旦戻るから…。」
そう言って、サンヒョクは暗闇の中へ駆けだしていった。
「サンヒョク! 無理するなよ!」
ヨングクが声をかけた。
「………。」
チュンサンは、じっと考え込んでいた。
そして、顔をあげると言った。
「ヨングク。懐中電灯はまだあるか?」
「…? …ああ… もうひとつ、あるにはあるが…。
…お前も探しに行く気か?」
「ああ。行ってくる。」
チュンサンは、懐中電灯を受け取ると、空を見上げた。
ちょうど月が雲に隠れていたが、星は美しく見えていた。
「…カシオペアか…」
チュンサンがつぶやいた。
「…ん? なんだって?」
そのヨングクの問いには答えず、チュンサンは山の方に向かって歩き出した。
「チュンサン! お前も無理するなよ!」
ヨングクの声にチュンサンは振り返り、言った。
「温かな飲み物を用意しておいてくれるか?
ユジンは…
それに、サンヒョクもこの寒さの中だから…。」
「OK! わかったよ。」
「チュンサン! 気をつけてね!」
チェリンの声も、寒さに震えていた。
*
どのくらいたったのだろう…。
くじいた足の痛みよりも、寒さに身体が震えていた。
(…どうしよう… …誰か…!)
ユジンは膝を抱えて泣いていた。
チュンサンの言葉に、何も考えずに走り出してしまった自分だった。
すべては… 嘘…。
哀しかった。
生まれて初めて、異性に対して感じた気持ち…。
それが、踏みにじられたようで、悔しく情けなかった。
(…チュンサン…
…どうして…)
ユジンは、止まらぬ涙に顔を覆っていた。
(…ユジン… チョン・ユジン…)
気のせいだろうか…。
どこかで自分の名を呼ぶ声が聞こえていた。
(……!)
声は、次第に近づいてくる。
ユジンは立ち上がり、耳をすませた。
「…ユジン! ユジン!」
(…! サンヒョクの声だわ!)
ユジンは、大きな声で応えた。
「サンヒョク! ここよ!」
声が返ってきた。
「ユジンか? そこにいるのか?
…待ってろ! 今行くから!!」
ユジンは、膝から力が抜けていくような気がした。
やはり探しに来てくれたのだ。
「…ユジン! …よかった…。
…怪我はないか?」
やがて、懐中電灯のまぶしい光とともに、サンヒョクが額に汗を光らせながら現れた。
その顔には、疲労と安堵の色があった。
「…大丈夫…。ちょっと足をくじいただけ…。」
ユジンは、急に痛み始めた膝をさすりながら答えた。
「…歩けるか?
…それならいい…。
…みんな、心配してるんだ。
早く帰ろう…。」
サンヒョクはそう言うと、元の来た道を照らした。
その光の先は、闇に吸い込まれて何も見えなかった。
二人は、そのまま黙って歩き出した。
やがて、サンヒョクがぽつりと口を開いた。
「ユジン…。
なんだって、こんなところまで来たんだ…?」
「………。」
ユジンは、答えられなかった。
黙ったままのユジンを見て、サンヒョクは言った。
「…お前… みんなに心配させて…。
…もしも、僕が見つけていなかったら… 凍え死んだかもしれないんだぜ?
…本当に、どうして…。」
ユジンは、うつむいた。
胸の中に、また哀しみが沸き起こってきた。
涙があふれてきて、それを手でしきりにこすっていた。
その様子を見ながら、サンヒョクも口を閉ざした。
しばらく歩いたが、まだ山小屋の灯りは見あたらなかった。
「…おかしいな…。
そろそろ着くはずなのに…。」
サンヒョクが首をひねりながらつぶやいた。
「…大丈夫なの…?」
ユジンも不安になってたずねた。
サンヒョクは、ちらりとユジンを見ると、不機嫌そうな声で言った。
「お前は、僕を信じてついてくればいいんだよ。
大丈夫。
もうすぐ着くはずさ…。」
「………。」
ユジンは、サンヒョクの横顔を見つめた。
なんだか、寂しい横顔だった。
*
「…ねえ…サンヒョク…。
ここは、さっき通った道じゃないかしら…。」
ユジンは、おそるおそる声をかけた。
「………。」
サンヒョクは、返事もせずに歩いている。
どうやら、彼にも気がついているようだった。
(…迷ってしまったんだ…。)
ユジンは、もう一度声をかけた。
「サンヒョク。一度やすまない?」
サンヒョクは振り返って怒鳴った。
「馬鹿言うなよ!
このままじゃ二人とも凍えてしまうだろう!?」
そう言ったサンヒョクも、大きな息を吐くと、その場にしゃがみこんだ。
ユジンも、座った。
つま先が冷えて感覚が乏しくなっていた。
「…どうして…こんな目に…」
サンヒョクのつぶやきが聞こえた。
ユジンは、うなだれたまま黙っていた。
風が…止まった。
急に、サンヒョクが立ち上がった。
「…! 灯りだ!
…誰かいるんだ…。
おお~い!
…おお~い!!」
手にした懐中電灯を回しながら、サンヒョクが大きな声で叫んだ。
尾根の下の方に小さな光が動いているのが、ユジンにも見えた。
その光は、やがてこちらに近づいてきた。
やはり懐中電灯らしい。
…チュンサン…!
現れたのは、チュンサンだった。
その顔も上気していた。
ユジンとサンヒョクの姿を見つけて安堵したらしい。
「…やっと見つかったな…。
…ずいぶん探したよ…。」
チュンサンは、ユジンの顔を見つめながら言った。
「…探した…だって?
…僕たちが、君を見つけたんだよ。」
サンヒョクが言った。
「……。」
チュンサンは、サンヒョクをにらんだ。
そして、言った。
「…とにかく、山小屋に帰ろう…。
…ん?
…ユジン… 怪我をしてるのか…?
それじゃあ、坂がゆるやかな方がいいな…。
…あっちの道から戻ろう…。」
チュンサンの言葉に、サンヒョクが言った。
「…君、道がわかるのか?
勝手に決めないでくれ。
…さあ、ユジン…
…こっちの方が近道のはずだよ。」
チュンサンが言った。
「…サンヒョク…。
そっちは、だめだ。
山小屋の方じゃない…。」
サンヒョクは、じろりとチュンサンを見返すと言った。
「いや。僕たちは、こっちの道から行くよ。
チュンサン…。君は、あっちへ行くといい。
どちらの道が正しいか… 賭けてみようか?」
チュンサンは、哀しげに笑った。
「…君と僕が… 違う道で…?
…それもおもしろそうだな…。
…なるほど…僕たちは、元々違う道を歩く運命なんだからな…。
…だけど…今は違う。
…同じ目的なら、一緒に正しい道を選ぶべきだ。
君の選んだ道は、明らかに間違ってるんだよ…。」
「そんなこと、わかるものか!
とにかく僕たちは、こっちへ行くからな。
ユジン! ついてくるんだ!」
サンヒョクは、ユジンの手を引いて歩き出そうとした。
「…待って! サンヒョク! ちょっと待って!」
サンヒョクの手をふりほどくと、ユジンはチュンサンに向かって言った。
「…チュンサン…。
本当に、あっちの道でいいの?」
「ああ。本当だよ。」
チュンサンはうなずいた。
その目は、しっかりとユジンの目を見つめていた。
「……わかったわ。
…サンヒョク。
あっちの道で行きましょう。」
ユジンが言うと、
「ユジン…。
こいつの言うことを信じるのか?」
サンヒョクが呆れたように言った。
「…そうよ。
…チュンサンを…信じるわ…。」
ユジンがつぶやいた。
チュンサンは黙って空を見上げた。
(…カシオペアは… あっちだ…。)
-後編につづく-
第4話
「もし…ユジンを見つけたのがチュンサンでなかったら…」(後編)
3人は、山を下り始めた。
チュンサンを先頭に、ユジンがその後ろを歩き、サンヒョクは最後尾を歩いた。
チュンサンは、迷っている様子もなく、黙って歩いていた。
時折振り返っては、ユジンの足元を気遣っていた。
「ユジン… 急がなくていいからね…。
おっと… ここに木の根が出てる… 気をつけて…。」
「…うん…。」
ユジンはチュンサンの影だけを見据えて歩いた。
「やはり暗いのは不便だな…。
何も見えやしない…。」
電池の切れた電灯を叩いて、サンヒョクが言った。
「雪が積もっていたら… もっと明るかったかしら…。」
ユジンが言うと、サンヒョクはため息をついた。
「………。」
チュンサンの小さな笑い声が、かすかに聞こえた。
20分程歩いただろうか…。
3人にとっては、長い時間だった。
眼下に、山小屋の灯りが見えた。
「あっ! 見えたわ!
あそこよ!
クルスマス・ツリーも見えるわ!」
ユジンの声に、チュンサンは僅かに微笑んだ。
サンヒョクは憮然とした表情のままでいた。
「…あ! 帰ってきた…。
…ヨングク! ユジンたち、帰ってきたわよ!!」
チンスクの声に、ヨングクとチェリンも外へ飛び出してきた。
「サンヒョク! 大丈夫か!?」
ヨングクが、肩を抱くようにして言った。
「…ああ。僕は大丈夫だよ。
ユジンは、少し足を痛めたようだ。
お前、何か薬を持ってたよな?」
「湿布薬ならあったはずだ。
なんなら風邪薬も出そうか?」
ヨングクは、顔に似合わず準備がいいらしい。
「とにかく中に入ろう。
身体が冷えてたまらないよ。」
サンヒョクが言った。
「ああ、熱いコーヒーがたっぷりあるからな。
チュンサンに言われて用意しておいたよ。」
ヨングクの言葉に、サンヒョクはチュンサンを見た。
チュンサンも、サンヒョクを見た。
…『同じ目的』…
サンヒョクの胸に、不安な風が吹き込んでいた。
ユジンは、しきりにチンスクやチェリンに謝っていた。
少し足を引きずりながらも、ようやく笑顔が戻っていた。
「…ともあれ、無事でよかった…。
早く中に入ろうぜ!」
ヨングクがみんなをうながした。
「ちょっと待って…。
チュンサン…。 少し話があるの。
…みんなは、寒いから中に入って…。」
「…おい…。
…コーヒーが冷えるから、早くしなよ…。
じゃあ…。」
みんなの不審そうな顔を気にしながらも、ユジンはチュンサンとふたりになった。
「…チュンサン…。
私… 」
ユジンが言いかけると、
「…その前に、俺に言わせてくれるか?
…手遅れになる前に…
…俺…
…このキャンプに来ようか、迷ってたんだ…。
…お前に… 俺…。
…たとえお前に憎まれてもかまわない。
…でも…俺…
…本気だったんだ…。
…それだけは言いたくて…。」
チュンサンは、山小屋の前の椅子に腰掛けて言った。
「……。」
ユジンは、そのチュンサンの顔を見つめた。
あの時と同じ…。
初めて、ピアノを弾いてくれた時の横顔が、そこにあった。
「…私…
…憎んでなんかいないわ…。
…私… あなたを誤解してたのかもしれないって…。」
ユジンの言葉に、チュンサンは微笑んだ。
「…よかった…。」
チュンサンは、小さくため息をついた。
「…私…
…謝らなきゃ… あなたに…。
…許してね…。」
ユジンは、彼の頬をぶった時のことを思い出した。
彼に弁解さえさせずに、自分は…。
「…謝るのは俺の方さ…。
…それに… 誤解は、許すものではないよ…。」
そう言って、チュンサンは笑った。
「………!」
ユジンも微笑んだ。
「…ねえ、チュンサン…。
…どうしてここに戻る道がわかったの?
…目印でもあったの?」
ユジンは、ずっと不思議に思っていたことを尋ねてみた。
「…ああ… そのことか…。」
チュンサンは、立ち上がって空を指さした。
「…ユジン…。
あそこにWの形をした星が見えるかい?」
ユジンも空を見上げた。
月が隠れた空に、はっきりとWの形が見えた。
「ええ、見えるわ。
カシオペア…よね?」
「…そう。
…じゃあ、その横にあるポラリスは?」
「…ポラリス?」
ユジンは首をかしげた。
「北極星だよ。
カシオペアと北斗七星の間にあるだろう?」
「…? …あ。
見えるわ…。 あれがポラリス?」
ユジンは、思わず声をあげた。
「山で迷った時には、ポラリスを探すんだ。
そして身体を羅針盤にするんだよ。
俺… 歩きながら、ポラリスを道標にしていたんだ。」
「…そうだったの…。
…でも… 星は時間で位置が変わるんでしょう?」
ユジンが言うと、
「いや、ポラリスだけは動かないんだ。
いつも北の空にあるんだよ。
だから、迷った時にはポラリスを見つけることを忘れないで…。」
チュンサンは、ユジンの顔を見つめて言った。
「…うん…。
…ポラリス…ね。
…覚えておくわ。」
「じゃあ、そろそろ部屋に戻るといい。
早く身体を温めて…。
…足… まだ痛むかい?」
チュンサンが心配そうに尋ねた。
「…うん…。
でも、たいしたことないみたい。
ヨングクにお薬をもらって寝るわ。」
「それがいい。
早く寝ないと、また寝坊するからね。」
「…!
寝坊なんかしないわよ。
明日は誰よりも早く起きて、朝ご飯を作るんだから。
あなたこそ、寝坊するんでしょ?」
「…僕も早起きするよ。」
「…早起きしてどうするの?」
「…そうだな…。
…誰かと散歩…かな?」
チュンサンは、横をむいたまま笑っている。
「………!」
ユジンも恥ずかしそうに微笑んだ。
「じゃあ…チュンサン… おやすみ…。」
「ああ、おやすみ…。」
ふたりは、それぞれの小屋の方に向かった。
ユジンはふと立ち止まり言った。
「チュンサン… ありがとうね。」
「…ん? 何が?」
チュンサンは目をぱちぱちさせながら聞いた。
「…コーヒーよ。
あなたが頼んでくれたんでしょう?
…ありがとう。」
「………。」
チュンサンは照れくさそうに笑った。
「おやすみ… ユジン…。」
「おやすみ…。 チュンサン…。」
月を隠していた雲が晴れて、お互いの顔が見えた。
ふたりは微笑み合うと、手を振った。
小さな約束を胸に、今夜はもう眠ろう…。
(明日は… 早く起きなきゃ…)
互いにそう思っていた。
-了-
あとがき
書き終えて、満足感を感じられません。
やはり、本編の脚本の方が素晴らしいからでしょう。
やはり、本編の脚本の方が素晴らしいからでしょう。
冬ソナワードをたくさん使ってはみましたが、やはりチュンサンがユジンを見つける方がいいですよね。
本編の良さを再確認するストーリーだと思いました。
本編の良さを再確認するストーリーだと思いました。
第5話も早々のノミネート。
子狸さんの登場です。
子狸さんの登場です。
高校時代も過ぎ、あのミニョンとのスキー場でのシーンです。
無理がなくってとってもいい感じ。
気に入りました。
気に入りました。
第5話 「もしも…チェリンがスキー場のコテージに来なかったら…」 by 子狸 さん
第6話はseikoさんのエントリーです。
いきなりこの場面ですか…。
うん…この後が書きやすくなったかな。
ストーリーの順序を意識しなくていいと思いながらも、ちょっと気にしてましたから。
うん…この後が書きやすくなったかな。
ストーリーの順序を意識しなくていいと思いながらも、ちょっと気にしてましたから。
シンプルにまとめられてます。
これならサンヒョクも納得してくれるんじゃないかな…。
これならサンヒョクも納得してくれるんじゃないかな…。
第6話 もしもユジンがチュンサンを追いかけてアメリカに行ったら by seiko さん
第7話はぷみまろさんの作品です。
ぷみまろさんらしく、画像も使って素敵にまとめられています。
ぷみまろさんらしく、画像も使って素敵にまとめられています。
チンスクの役どころをこんな形でユジンに持って行ったんですね…。
第7話 もし、チェリンとチンスクの話を、ミニョンが聞いていなかったら・・・。 by ぷみまろ さん
第8話 「もし… ユジンがミニョンの部屋を訪ねていたら…」
次々と胸に点る不審の火…。
人々の気になる言動…。
私は、ここに来てしまった…。
抑えられぬ気持ちは、とうに仕舞ってあったはずなのに…。
ミニョンさんの部屋。
彼に会うことが正しいことなのか… 今は、それもわからない。
サンヒョクとの道を選んだはずなのに… また、こうしてここに来た私…。
もう… 二度と会わないと決めたはずなのに…。
ベルを押す…。
それを、ためらう自分…。
ユジン… 本当に…いいの?
私は、もう一度深く息を吐くと、呼び鈴を押した。
指先に自分の鼓動を感じながら…。
ベルの音が、身体中に流れた。
「…どなたですか…?」
インターホンから彼の声がした。
「…私…です…。」
かすれる声。
「……! …ユジンさん…?
………。
…待ってて…。」
静かに開いたドアの向こうに、驚きを隠せない彼の顔があった。
「…ユジンさん… どうして…
…あ… いえ…
…さあ、どうぞ…。」
彼は私を、その部屋に招き入れた。
「…ごめんなさい… こんな時間に…」
震える背中で、ドアが閉まる音を聞いた。
*
彼は、以前と変わらずに、優しく私をリビングに案内してくれた。
あの笑顔は見られなかったが、言葉の端々に私への気遣いを感じてしまう…。
それが切なかった。
私は… この人に…。
あの夜の彼の悲痛な声が、まだこの耳に残っている。
『…今…会いたいんです…』
出されたコーヒーのカップにも、私は手をつけられなかった。
「…なにかあったのですか…?」
彼が言った。
私は、返事ができなかった。
そうなのだ。
私は、なにをしにここへ来たのだろう…。
サンヒョクやチェリン… そしてお義父様の言葉が気になって…
…そんなことを言えるはずもなかった。
何かを確かめたい… そう思って来たことも、今は忘れていた。
ただ… 会いたくて。
会いたい気持ちに、理由などはないのだ。
「僕… うれしいです。
もう一度、あなたの顔を見ることができて…」
彼は、小さく微笑んだ。
私は、顔を伏せた。
「…ごめんなさい… 私…」
彼の優しさに耐えきれず、溢れそうになる涙を私は抑えた。
「あなたが謝ることなど、何もありません…。
僕は、ずっと幸せでした。
そう…ずっと…
…これからも…。」
彼もうつむいたまま言った。
「…これからは、サンヒョクさんと… 幸せになってください…。
僕… たとえ遠くからでも祈ってますから…。」
…遠く…?
「…遠くから…って… どこかに行かれるのですか…?」
私は、思わず彼の顔を見つめた。
彼は、寂しげに笑った。
「…ええ。
アメリカに帰ります…。」
「…アメリカに…。
…いつ…?」
私は、突然のことに動揺した。
「…明日…。
12時の便で発ちます。
お別れの挨拶をしたいと思っていましたから…
こうしてお会いできて、本当にうれしいです。」
彼の目には優しい光があった。
「…なぜ…
…なぜ急に…」
私は、その理由を尋ねた。
もしかしたら… この自分のせいかもしれないと思ったのだ。
「…それが一番だと思ったものですから…。
…自分にとっても…
…他の人たちにとっても…。」
「………。」
やはり… この人は…。
私は、何も言えずに、彼の顔を見つめた。
彼も、黙ったまま私を見つめている。
時間が… いつまでも、このままであったなら…。
「…結婚のお祝いをあげられればいいのに…
今の僕には何もできないようです。
…ただ祈ることしか…
…あ。
…そうだ…
…せめて、あなたのためにお祝いの火をともしましょう…。
…ちょっと待ってください。
…どこかにあったはずだけど…」
彼は立ち上がり、奥の部屋に入っていった。
そして、すぐに何かを手にして戻ってきた。
「…ありました。
…これ… あのスキー場でもらったものです。
…懐かしいな…。
…さあ… どうです?」
彼が持ってきたのは、小さなキャンドルだった。
彼は、それに火を灯すと、部屋の灯りをわずかに暗くした。
「…初めてあなたと会った時…
…そうです。
あの高校の放送室で…。
あの時も、みなさんでお祝いをしていましたね。
ケーキにキャンドルを灯して…。
…あの時に… すべて戻さなければ…。
…あなたも… 僕も…。」
彼の眼鏡に、キャンドルの炎が映っている。
あのスキー場のバーで…
あの時と同じように、彼の顔は寂しさを映している…。
「…私… 悪い女ですね…。」
彼の心を知りながら… 私は、いつもそれに甘えてばかり…。
「…悪いのは… 僕です…。
…全部… 僕のせいなんです…。
…あなたを… ずっと苦しめてきたのだから…。」
彼は、窓の外に視線を移して言った。
「…せめて… あなたを覚えていたなら…」
彼の、小さなつぶやきが聞こえた。
テーブルのキャンドルは、少しずつ短くなっていく…。
やがて消える… 彼との時間のように…。
「…そうだ…
あれも…」
彼は、鞄の中からまた何かを取りだした。
そのトラベルバッグを見ながら、私は彼が遠くへ去る哀しさを、改めて感じていた。
彼は、何かを壁際のオーディオ機器に入れた。
その横顔に、キャンドルの炎は温かな影を作っている。
… … … …
やがて流れ出したピアノの旋律…。
…これは…
私は、思わず彼の顔を見た。
彼は、目を閉じたまま言った。
「…この曲…
…あなた… 好きだったでしょう…?
…そう言えば、あの放送室でもかかってましたね…。
…これ…
…あなたにあげようと思ってたんです…。」
「………。」
静かに流れる『初めて』のメロディー…。
私の胸に拡がっていく涙の調べ…。
「…僕もピアノが弾けたなら…
…録音して、あなたにあげたかったのに…。
…チュンサンのように…。」
彼がつぶやいた。
(……!)
私は、驚いた。
なぜ… それを…?
どうしてミニョンさんが…。
チュンサンが、テープに録音してくれたこと…
私は、今まで誰にも話したことがないのだ…。
「…ミニョンさん…
…どうして…それを…
…私… 誰にも話したことがないのに…」
……!
…まさか…
…そんなこと…
彼は、窓際に立って背中を向けていた。
その背中が、かすかに震えている…。
「…ユジンさん…。
…僕の話を信じてくれますか…。
…僕…
…母に聞いたんです…。
…あの日… 10年前のあの日…
…事故があった夜は、雪が降っていたそうですね…。」
私は、ソファーから立ち上がった。
「…空港に向かうタクシーから飛び降りて…
…『約束があるんだ』と…
…そして… 事故に遭ったんです…。」
(………!!)
…まさか…
…ミニョンさんが…
私は、言葉を失った。
…チュンサンが… 生きていた…
…チュンサンが…
ようやく私の唇が動いた。
「…チュンサン…なの…?
…本当に… チュンサンなの…?」
彼は、ゆっくりとこちらに向き直った。
そして、静かに眼鏡をはずした。
その頬に、涙が一筋つたっている…。
「…そうです…。
…僕が… チュンサンなんです…。」
……!!
私の中の何かが崩れた。
身体中の感覚を、一気になくしてしまったように…
…チュンサン…?
…チュンサンが…?!
私は目の前の景色が回り出すのを感じた。
頭の中を、何かが回っていく…。
「…ユジンさん!」
気がつくと私は、彼に抱き止められていた。
その彼の腕の中…
目の前にあるその顔は… 忘れもしない彼の顔…。
「…チュンサン…。
…あなたなのね…。
…チュンサン…。」
私は、彼の名を呼び続けた。
ずっと…
声に出して呼びたかった、その名前…。
彼の目は、涙で溢れている…。
その涙が、私の涙と一緒に頬をつたった。
私は、彼の身体を強く抱きしめた。
そして、叫んだ。
「ごめんなさい!
今まで気づかずにいて…
チュンサン!
ごめんなさい!」
彼も、力一杯私の身体を抱きしめた。
10年という… 長い時間が、今この身体の中を吹き抜けていくような…
そんな激しい嵐の中で、私達はいつまでも抱き合っていた。
-了-
あとがき
こんな感じ…いかがでしょうか…。
この後ふたりは、また涙の時間を過ごすことになるわけです。
一日早い『再会』になりました。
この後ふたりは、また涙の時間を過ごすことになるわけです。
一日早い『再会』になりました。
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poppo
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