冬ソナで泣きたい! ~Poppoの落書き帳~

   あなた… 今でも泣きたいんでしょう?    …泣くならここが一番ですよ…

連作『冬ソナで食べたい!』

連作『冬ソナで食べたい!』


tabetai



 久しぶりの連作です。


  - 目次 -  

※残念ながら、リンク切れのものもあり、現在リンクできるものだけです。
 タイトル番号をクリックすると、それぞれの作品にリンクします。


 第1話 「調理実習」 by poppo

 第4話 「初恋の味」 by poppo

 第5話 「Mamma」 by poppo 

 第6話 「冷たい食卓」 by 阿波の局ssi

 第8話 「蜜柑」 by poppo

 第10話 「涙の味」 by seiko ssi

 第11話 「満腹」 by poppo

 第13話 「ココア」 by 子狸 ssi

 第15話 「残った夕食」 by poppo

 第19話 「初恋の味は カ〇ピスの味? 高校生女の子編」 by seiko ssi

 第20話 「出前」 by poppo

 第22話 「幸せな食卓」 by ruri ssi

 第24話 「ラーメン鍋」~キャンプの後で~ by ruri ssi

 第25話 「賞味期限」 by poppo

 最終話 「感謝」 by poppo


 この連作に参加していただいたのは上記の方々だけではありません
  うさこさん
  あとむままさん
  とまとさん
  ぷみまろさん
  エコさん
 この皆さん作品も、素敵なものでした。
 なぜか僕の保存箱から消えていて、修復できませんでした。

 もし、まだお手元に作品が残っておられるようでしたら、ぜひご連絡をいただきたく思います。
 素晴らしい作品を今一度リンクしていただければありがたいです。




第1話 「調理実習」 by poppo


「調理実習」




「…! アチチチッ…!!」


春川第一高等学校の調理室に、ヨングクの悲鳴があがった。

「チンスク! 気をつけろよ!

 …もう少しで大やけどするところだぜ…。」

いきなり沸騰した鍋の中に、トックを山ほど入れたのだ。

熱湯が跳ねて、そばにいたヨングクのズボンにかかったのである。

「ごめん! 手がすべっちゃった…。

 …大丈夫? ヨングク…。」

肩をすくめたチンスクが言った。


「…大丈夫じゃないよ。

 見てみろ…。ズボンがこんなだよ…。」

まだ湯気があがるズボンを、パタパタあおぎながらヨングクは愚痴っている。


「ちゃんとエプロンをしないからよ。

 本当に、ルーズな人ね。

 昨日、忘れないようにあれほど言われたでしょう?」

チェリンが、横から口を入れた。

自分は、派手な赤いエプロンをつけていた。


「けっ! 男がエプロンなんか持ってるわけないだろ!

 …ほら、チュンサンだって、してないじゃないか。」

ふと壁際を見ると、チュンサンが面白くなさそうな顔で、窓の外を眺めている。


チェリンはそのそばに寄っていって言った。

「チュンサン! さあ、あなたも一緒にやりましょう!

 エプロンは?  …?

 …ああ… 転校生だものね… 知らないのもしかたないわ。」

チェリンは、自分のかばんの中から、キルトの袋を出してきた。

「…これ、使って!

 …エプロンに… 三角巾… バンダナみたいにつけるといいわ。

 タオルと… マスク…  あなたに貸してあげる!」


「………。」

チュンサンは、黙ったままそれらをちらりと見るだけだった。


「チェリンのやつ… わざわざ用意してたのかよ…。」

ヨングクが、目をしばたかせながらつぶやいた。


「おい、ヨングク。こっちを手伝ってくれよ。」

サンヒョクの声がした。

さすがに学級委員長、エプロンや頭巾をしっかりと着けていた。

「ああ、今いくよ!」

冷たくなりはじめたズボンが張り付くのを、気持ち悪そうに気にしながら、ヨングクが答えた。

「…ったく… 面倒くせえなぁ…。」


ユジンは、それを笑って見送りながら、またチュンサンの方を眺めた。

相変わらず、つまらなそうな顔をしている。


「チュンサン。 あなたも手伝ってよ。

 そうね… これでも切ってくれる?」

ユジンは、サラダにする胡瓜と、包丁をチュンサンに手渡した。

「………。」

チュンサンは、返事もしなかった。

しかし、素直にそれをまな板の上にのせると、包丁で切り始めた。

なんとも手慣れない感じで…。

「あ… 痛っ…」

チュンサンが、指を切ったようだ。

ユジンは駆け寄った。

「大丈夫?」

チュンサンは指をくわえている。

「ちょっと見せて。」

ユジンの言葉にチュンサンは首を振った。

その目が笑っている。

「…大丈夫だよ。 ちょっと切っただけさ…。」

ユジンは、ほっと胸をなでおろしていった。

「あなた… 料理したことないの?」


「…ないよ。」


「…じゃあ、何も作ったことないの?

 自分が食べる物なのに?」


「……。 …あ。

 …目玉焼き…。」


「目玉焼き?

 そんなの料理のうちに入らないわよ。」


「…目玉焼きは… フランス料理のひとつだよ…。」

チュンサンがつぶやいた。


「フランス料理?

 ずいぶん大きく出たわね。

 あなたフランスに行ったことあるの?」


「…ないよ。」


ユジンは笑いながら言った。

「とにかく今日は、みんなで作るんだから…。

 あなたもちゃんと参加してよ。

 トッポッキを作るんだから…。」

チュンサンはしかたなくうなずいた。



向こうのテーブルでは、サンヒョクとチェリンが火加減のことで争っていた。

ヨングクとチンスクは、ナムルを作っているらしい。


「…あ! ヨングク!

 またつまみ食いなんかして!」


「いいじゃないかよ。

 どうせ食べるんだから。」


「食べるのは後!

 本当にもう!」

チンスクも、怒っている。

「…あ、畜生…

 歯に何か挟まっちまった…。」

もやしでも挟まったのか、ヨングクが指を口の中に突っ込んでいる。

「フィンフク… ふま楊枝、持ってないは?」


「……幻滅…。」

チンスクは、ため息をついた。



「ユジン…どう?

 うまくできたかい?」

味付けを終えたトッポッキの鍋を、サンヒョクがのぞきこんだ。

「…どれどれ…」

サンヒョクが手をのばして、赤い餅を口に入れた。

「まあ、サンヒョクまで!

 手で食べるなんて、行儀が悪いわよ!」

ユジンが怒鳴った。


「…君も、うちの母さんと同じだな… ん?! ……!!

 み、水!  …水っ!!」

サンヒョクは、水道の蛇口に向かって走ると、顔を寄せて水を飲んだ。

「辛~っ! ユジン、何を入れたんだ?」

サンヒョクの言葉に、ユジンは手にしたコチュジャンを見せた。

「…入れ過ぎちゃった?」

ユジンも菜箸でひとつ味見をしてみた。

「…?  ……!!」

さすがに吐き出しはしなかったが、のどの奥まで真夏のようだった。


「………!」

チュンサンと目があった。

彼は、笑いを抑えるのに苦しそうだった。

ユジンはそっぽを向いた。

辛くて、涙目になっていた。

チュンサンはおなかを抱えている。

ユジンが言った。

「チュンサン!

 笑うなんて失礼よ。

 あなただって…。

 それとも、あなたって同じ失敗を二度としない人?」


「…ああ、しないよ。」


「……!

 …チンスク! ごめん、お水ちょうだい!」



          *


その日の調理実習は、こうして終わった。

ユジンたちは、出来上がったトッポッキを、担任のパク先生の部屋に持って行った。

お裾分けのつもりであった。


彼らが、先生の部屋を出たその後…


部屋の中で、大きな声があがった。


ドアが開いた。


「チョン・ユジン!

 クォン・ヨングク!

 貴様たちっ!!!」


文字通り、口から火を噴いている。

廊下に響くその怒声に、ユジンたちは後ろも見ずに逃げ出した。


                               -了-


あとがき

久しぶりの連作のテーマとして、『食事』をあげたいと思います。
『食べ物』や『飲み物』でもかまいません。

ドラマの中には、何度も食事やお茶、あるいはお酒のシーンがありました。
人物たちの感情を表現する小道具として、重要なものなのでしょう。

韓国料理の紹介でもよし、我が家の定番メニューでもよし。
僕が今回書いたように「冬ソナワード」にこだわってもよし。

高校時代でも、ミニョン時代のお話でも、なんでもいいと思います。

ぜひ、素敵なお話でご参加ください。
 

第2話 by うさこssi

うさこさんがエントリーしてくれました。

第2弾はうさこさんの作品です。
よろしく、どうぞ!

  第2話 「二人でお酒を…」 by うさこさん

第3話 by あとむまま ssi

第3話へのエントリーは、あとむままさんです。

寒い季節らしく、鍋…。
さあ、どうぞ温まってくださいね!

   第3話 「チゲ鍋」 by あとむままさん

第4話 「初恋の味」 by poppo


「初恋の味」





何かに引き寄せられるかのように… 訪れた、この高校…。

 『春川第一高等学校』


ユジンさんと… カン・ジュンサンが学んだ学校…。



あの日…。

チェリンに呼び出されて、初めてここに来た時は、まさかここが自分にも関係のある場所だとは思いもしなかった。



僕が…  カン・ジュンサンだった僕が、通った高校…。


しかし、何も覚えてはいない…。



僕は、校舎の中に足を踏み入れた。

静かな校舎を歩く僕。

誰もいない…。

誰も…。


まるで、僕ひとり… 『影の国』にいるようだ。



ユジンさんが書いたのだろう… いくつかの小さな手紙…。

『…焼却場で降らせた落ち葉の雪…。面白かったわ…。

 …ありがとう…。』

その焼却場を見ても、僕の心に浮かぶ景色はなかった…。



そして… 入り込んだ講堂…。

薄暗いその場所に、窓から一筋、光が差し込んでいる。


『…さっき弾いてくれたピアノの曲… “初めて”…だっけ?

 …本当に上手だったわ…。

 あのときだけは、ちょっと格好よかったわよ。

 …プロかと思っちゃった…。』


僕は、そこに置かれたピアノを開いた。

ここで… チュンサンは、君に…。


僕は、ピアノに向かった。

その曲…。

弾いた記憶のない曲…。


それが… 僕の指が奏でている…。

この指が… 覚えている…。


やはり… この僕が、カン・ジュンサンなのだ…。



ふいに聞こえてきた、朗読の詩…。

何かのリハーサルなのだろうか…。

たどたどしいその声は、初恋の詩を読んでいた。


『…あなたの愛で… 私を目覚めさせてください…』


僕は、静かに聴き入った。


『…もし… また、初恋の人が私を呼んだら…』


(………。)

僕は、小さく彼女の名前を呼んだ。


「…ユジンさん…

 ………


 …ユジナー…。」



          *



彼女とチュンサンとの思い出があふれた学校。

校門を出て、僕は歩き出した。

何も思い出せなかった…。


もしかしたら… という期待も、消えた。



道の途中に小さなパン屋があった。

僕は、足を止めた。


『…冬休みはどうする?

 パンを食べながら、相談しない?

 …パンはおごってよね!』


僕は、その店に入った。


並べられた、たくさんのパン…。

きっとあの高校の生徒たちが、いつも買っているのだろう。


彼女は… ユジンさんは、何を選んだのだろう…。


「…いらっしゃい…

 パンですか?


 …どれにいたしましょう?」


優しそうなおばさんが出てきて、そう言った。


「…あ… そうだな…

 ………。


 …これ…


 …これください…。」


僕は、見たことのないそのパンを選んだ。


「…コロッケパンですね?

 …おひとつですか?」


「…ああ…ふたつ…

 ふたつ、ください…。」

僕と… 彼女の分…。


「ありがとうございます。

 …1200ウォンになります。」


僕は、その紙包みを抱いて、春川をあとにした。

もう… 二度と来ないだろう…。

僕は、『イ・ミニョン』…。

カン・ジュンサンは、亡くなったのだ…。



ソウルに戻る途中のパーキング・エリア。

僕は、缶コーヒーを買った。


そして、あのパン…。

まだ少し、温かい…。


僕はそのひとつを、そっと口にした。


懐かしい…

確かに、懐かしいはずなのに…


何も思い出せない…!



僕は、涙をぬぐうと、車をスタートさせた。

ソウルへ…


いや…  …ニューヨークへ。


僕の『初恋』は、終わった…。



                          -了-


     


     

     


あとがき

今回は、ネタ探しに苦労してます。
自分で「食事」をテーマに決めたくせに、全く準備もしてませんから。
みなさんが書きやすいだろうと思っただけ。
またドラマをあちこち見て回っています。

このストーリーも、無理矢理「食べ物」に持っていっちゃいました。
どうしても「挿話」風になってしまいますね…。
韓国では、コロッケパンはどこにでも売ってるそうです。
日本のあんぱんのように、定番メニューなんだそうです。
値段も600ウォン(日本円で60円くらい)程度と、安いようですね。   

第5話 「Mamma」 by poppo


「Mamma」





今日もママはお仕事。

ボクはひとりぼっち。


お出かけ前のヘアスプレーの匂いで、頭も痛い。

マンマも食べる気がしない…。


ボク… 退屈で、つまんない…。

ただ寝てるしかないよ…。




朝起きたら、おなかが痛い…。


ママが寝ぼけ眼で起きてきた。

「…? ハッピー?

 お前、どこか悪いの?」

ママが抱っこしてくれたけど、なおさらおなかが痛くなった。

「どうしたの?

 ご飯も全然食べてないじゃないの…。」

ママは心配そうな顔をしてる。

ボクは、しかたなく一声鳴いた。

「クゥ~ン…」

ママは、慌ててどこかに電話をかけた。

「…もしもし… あ、POPPO動物病院ですか?

 イ・ジョンアですが、実はうちのハッピーが…

 …え? 今日は休診? …そんな…

 ええ、急ぎですが…  ダメ?


 …わかりましたよ! もうっ!」

ママは、大きな声で怒鳴ると電話を切った。


「…困ったわね…。」

ママは、ボクの顔を見つめている。

「………。」

ボクも、『困ってしまってワンワンワワン~♪』
  
…なんて歌う元気も出やしない…。


「…しょうがない。 別の病院を探しましょ…。」

ママは、そう言って、ボクを車に乗せた。

久しぶりのドライブだけど… ボクは、とっても不安になった。


いったいどこに連れていかれるんだろう…。



          *


「…ハッピーどころか、アンハッピーですよ!」

ママにむかって、その先生が言った。

「…はい?」

ママはあっけにとられている。

その先生… クォン・ヨングクという先生は、ママをさんざん罵り始めた。

ママが一番気にしてることも… あ~あ…言っちゃった…。


「コイツが人間の子どもなら、放任罪で逮捕ですよ!」

そこまで言ってしまった。

ママの顔色も変わっている。


…でも… ボクは、ちょっとうれしかった。


怒って別の病院へ行くというママを制して、ヨングク先生は、ボクを預かると言った。


ボクは、こうしてしばらくママと離れることになった。



          *


病院での食事は、美味しかった。

ヨングク先生は、ボクの好みを調べながら、いろいろと選んでくれた。

ママの買ってくる安売り品とは、味も香りも違ってる。


「お前、よく食うな…。

 身体は病気じゃなかったんだよな…。

 可哀想に…。

 まあ、美味しい物でも食べて、元気を出すんだぞ。」


そう言って、先生はボクの頭を撫でてくれた。


友達も増えた。

みんなそれぞれ別のケージに入ってはいたが、夜中にいろいろお話ができた。

どの子も、それなりに悩みがあるんだと知った。


「うちのパパはね…

 お散歩には連れていってくれるんだけど…

 あのね…  私が出した“アレ”を、ビニール袋に入れてさ…

 …私の首輪に下げるのよ。

 『自分の物は、自分で持て』だって!

 もう、息苦しくって…!」


「うちは、お散歩なんて… 暖かい時期だけだよ…。

 冬になったら、全然連れていってもらえないんだ…。

 ママに赤ちゃんが出来てから、撫でてもくれなくなったよ…。」


みんなの愚痴で、ボクは憂鬱になった。


「お前はいいな、ハッピー…。

 室内で自由にしてるんだろう?

 ママも独身だっていうじゃないか。

 うらやましいよ…。」


ボクは、返事ができなかった。


「…しかし、ここのヨングク先生…。

 優しいけれど、いつまでなのかな…。

 独身のうちは、いいけどさ…。」


マルチーズのチビ君が言った。


「…あの『チンクシャ』って姉さんと… 結婚するのかな…。」


(………!)

ボクも、心配になった。



          *



その『チンクシャ』姉さんが、やってきた。

なるほど… 『チンクシャ』だ…!


姉さんは、ボクのママのことを先生から聞くと、一気に不機嫌になった。

きっとママをライバルだと思ったんだろう。

ヨングク先生は、美味しいマンマを『チンクシャ』に勧めた。

『私は犬じゃないわよ!』


失礼なやつ…。

せっかく先生が勧めてくれたのに…。

まあ、いいさ。

ボクが全部食べちゃうもんね~!

今朝は、先生と半分こしたから、おなかが減っちゃった。



…あ…。

また、あいつだ…。

サンヒョクとかいう、先生の友達…。


こいつ、いやだ…。

嫌がるボクに、無理矢理キスしようとするんだもの…。

きっと、いつか痛い目に遭うに決まってる!

よ~し… ボクが、呪いをかけてやろう…。



しかし…

ママ、どうしてるかな…。



寂しいな…。





          *



スキー場でのお仕事が終わって、ママが帰ってきた。

ボクも、お家に帰ることになった。

ヨングク先生や、お友達ともお別れだ。

ちょっとだけ寂しいけれど、やはりママのそばがいい…。

お土産のドッグフードも、たくさん買ってくれた。

当分は、マンマも楽しみだ。


おや…?

いい匂い…。


ボクの鼻が、ピクピクした。


この助手席… とってもいい香り…。

ボクの使ってるシャンプーとは違う…。


誰か、お客さんが乗ったのかな?



ママが、運転しながらボクを撫でている。

その横顔…  

(………!)


…ママ…  泣いてる…。



きっと… ママも寂しかったんだよね…。

ママ…


ボク… いい子でいるよ…。

もう、いたずらもしないよ…。


ママ…  泣かないで…


ママ…。


                      -了-

     



あとがき

これ…『食べ物』の話でしょうかね…。
確かにドッグフードも食べ物ですが…。

まぁ、あまり固く考えずに…。
こんな話もあっていいかと。
 
後段は、もちろんミニョンと別れたユジンの香り…です。
   ↓これは、うちの猫たちの「マンマ」です。(^_^; )

    40582806.jpg



第6話 by 阿波の局 ssi

第6話は、ご存じ阿波の局さまが書いてくださいました。

お料理は苦手…と、ご本人はおしゃいますが、なんのなんの…。

では、「冷たい」世界へと…

  第6話 「冷たい食卓」 by 阿波の局さま

第7話 by あとむままssi

第7話は、またまたあとむままさんの作品です。

ああ、この場面か… きっとみなさんが、そう思うはず。

短い作品ながら、サンヒョクらしさがあふれてますよ。

  第7話 「執着」 by あとむまま さん

第8話 「蜜柑」 by poppo


「蜜柑」





暖かい陽射し。

柔らかな風。

そして、懐かしい薫り。


僕は、3年ぶりにソウルに戻ってきた。

もうじき春が訪れる…。

そんな気配を感じながら。



「…ミニョ…  いや、チュンサン…。

 昼飯は何にする?」

先輩が、大きな声で言った。


「…先輩… そんな声を出さなくても…聞こえてますよ。

 本当に、相変わらずですね…。」

きっと、僕の目のせいだろう。

見えなくなってから、みんなそうだ。

僕の視線が定まらないので… みんな、僕がぼんやりしているように見えるらしい。


「相変わらずは、お前の方だよ。

 …じゃあ、鰻丼でいいか?

 色男は鰻丼…  それに…


 …いや…

 …季節の変わり目だしな… 鰻丼でも食って、体力をつけなきゃ…。」


先輩…。

手術の話を避けたんだな…。

そんな先輩の配慮が苦しかった。


たぶん鰻丼も、そうなんだろう…。

フォークとナイフじゃ、僕が上手く食べられないのを… 先輩はもう知っている…。



「…あの家… 明日にでも行こうと思ってるんです…。

 …天気も良さそうだし…

 …先輩… いろいろとありがとうございました。」

僕は、鰻丼を食べ終わってから言った。


「…また、そんな堅苦しいことを…。

 …俺とお前の仲じゃないか。


 …ああ…そうだ…。

 …向こうには、去年俺がかけておいたプレゼントがあるよ。

 …お前の『大好物』だよ。」

先輩は、そう言った。


「…プレゼント? …なんですか?」


「…それは、行ってからのお楽しみ…さ。

 …遅くなったけど、クリスマス・プレゼント…かな?」


「…秘密ですか? …なんだか嫌な性格になりましたね。」


「…馬鹿言え。 …秘密好きは、お前の得意芸じゃないか。

 本当に『秘密』が大好きなやつだったよな…。」

先輩は、昔を懐かしむような声で言った。

僕も… あの頃のことを懐かしく思い出した。



すべて… 冬とともに終わった日々…。


そんな僕の表情に気づいたのだろう。

先輩は、また大きな声で言った。


「そうだ、あれがあったんだ!

 大好物で思い出したよ。

 俺の大好物…。


 おい、お前も食べるだろう?」


「…え? 何をです?」

僕は聞いた。


「ああ… 蜜柑だよ、蜜柑。

 食後のデザート、ってとこ。


 ああ… 俺が剥いてやるよ。

 待ってろ…。」

先輩は、どこからか蜜柑を取り出してきた。

「…よっ!…と。

 …ん?

 結構、固いな…。

 …!

 …夏みかんじゃあるまいし…。


 …う…!

 …あっ!!」

先輩が変な声を出した。


「…先輩、どうしました?」

僕には見えない…。



「…ああ、ちょっとな…。

 …目に汁が飛んじゃって…。


 …畜生… 目が見えねえや…


 ……!



 …すまない…。」


先輩の小さな声…。


僕は、笑いながら言った。

「…別に平気ですよ。

 …いただきます…。


 …うん、美味しいですね…。」


先輩も静かに言った。

「…そうだな。

 …蜜柑は冬物に限るよ。

 夏蜜柑よりも冬蜜柑…。


 お前はどっちが好きだ?」

その問いに、僕は答えた。

「…僕も… 冬が好きです…。」


(好きな季節は… 冬…)


あの冬の日は、もうすでに遠くなってしまった。

どこまでも白く… 透明な季節…


口の中に拡がる甘酸っぱい蜜柑…。

僕は、ほんの少し… 涙の味も感じていた。


                           -了-



あとがき

このストーリーは、僕の作品で最初に泣いていただいた『ふゆみかん』さんのために。
1年前の今頃も、彼女のために書いていました。
もう一度、彼女のために『ふゆみかん』をキーワードにして書く約束をしていました。
そして、彼女の好きなキム次長とのストーリーで。

連作の中でですが、そういった個人的な思いで書かせていただきました。
 

第9話 by とまとssi

第9話へのエントリーは、とまとさんの作品です。

タイトルを見た時、感じました。

『先に書かれてしまったかな…?』

さて、そのあたりはどうでしょうか…。


  第9話 「しょっぱい鯛焼き」 by とまと さん

author

poppo

ゲストブック
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

ギャラリー
  • ようやくの春
  • また冬が訪れようとしています。
  • 引っ越しました。
  • 引っ越しました。
  • 引っ越しました。
  • 引っ越し準備中です。
最新のコメント
内緒のメッセージ
読者登録
LINE読者登録QRコード