冬ソナで泣きたい! ~Poppoの落書き帳~
あなた… 今でも泣きたいんでしょう? …泣くならここが一番ですよ…
『冬の残り火』
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2006年11月21日
22:00
『冬の残り火』
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『冬の残り火』
poppo2019r1
ここは、「冬の挿話」や長編、その他で書けなかった作品群の部屋です。
いわゆるボツ原稿の倉庫です。
ー 目次 ―
各話にリンク済み:それぞれのタイトルをクリックしてください。
第1話「誓いの夜」
第2話「イ・ミニョン -その死-」
第3話「-出会い- ~彼… カン・ジュンサン~」
第4話「愛するがゆえに…」
第5話「EVE EVE」
第6話「誕生」
第7話「林檎」
第8話「夢 その2」
第9話「山小屋の朝」
第10話「夢 ~冬と春~」
第11話「凍湖」
第12話「私信」
第13話「登校のバス」
第14話「Pluto ~あれから1年後~」1
第14話「Pluto ~あれから1年後~」2
第14話「Pluto ~あれから1年後~」3
第15話「追試」
第16話「卒業を前に…」1
第16話「卒業を前に…」2
第17話「礼拝」
第18話「裏切り」
第19話「記憶の扉」
第20話「チング」1
第20話「チング」2
第21話「エスケイプ」
第22話「母の日に…」
第23話「5月の風」
第24話「同類」
第25話「時の扉」
第26話「最後の宴」
第27話「亡却」
第28話「禁煙」
第29話「必然」
第30話「Album」
第31話「祝電披露」1
第31話「祝電披露」2
第32話「沈黙」
第33話「追慕」
第34話「後輩からのメール」
冬の残り火 番外1
第35話「独占」
第36話「夕映え」
冬の残り火 番外2
第37話「街路樹」
第38話「same one」
第39話「別人」
第40話「鬼哭」
第41話「鉄面皮」
第42話「山小屋の二人」
第43話「海」
第44話「Crescent」
第45話「残されたチケット」
2006年11月21日
22:42
第1話「誓いの夜」
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『冬の残り火』
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「誓いの夜」
窓の外には、青くゲレンデがひろがっている。
ユジンは、瞳にその青さを映しながら、今日の結婚式を思い出していた。
自分とチュンサンを祝福してくれた人々の温かな言葉は、今こうして彼とふたりでいる幸福な時間を、優しく見守ってくれているのだ。
本当に…幸せ…。
フランスにいる時には、こんな日が来るとは思ってもいなかった。
ただ、彼との思い出を胸に抱いて、ひとりで生きていくことを誓っていた。
それでいいと…。
「…ユジン…。 何を考えているの…?」
シャワーから上がってきたチュンサンに、優しく抱きしめられた。
バスローブ越しに、彼の身体の温かさが伝わってくる。
「…チュンサン…。
…私たち… 本当に結婚したのね…。」
ユジンがつぶやいた。
クスっと笑ったチュンサンが、その腕に力を込めてきた。
「…そうだよ…。
…僕たち… 結婚したんだ…。」
「…もう… 離れることはないのよね?
ずっと… いつまでも…。」
チュンサンが髪をなでている。
「…ああ… ずっと… 離れたりしないよ。
もう二度と… 君を離しはしない…。」
「…約束よ。
…本当に、約束して…。
…誓って…
…神様や、あの人達にではなく… 私に誓って。
…私を、二度と…離さないと誓って!」
ユジンは、チュンサンの胸に顔を埋めた。
「…わかってる…。
…二度と君を離さないよ。
…約束だ。
…僕… カン・ジュンサンは、チョン・ユジンの夫として…
…何があろうとも、そのそばを離れないと… 生涯離れないと… 誓います。」
「…チュンサン… うれしい…。」
「…ユジン…。
…愛してるよ…。」
互いの唇が、永遠を誓う…。
互いの涙が、それぞれの心を結んでゆく…。
誰よりも… 愛しい人…。
あの日から… ずっと…心に決めていた人…。
「…チュンサン…。
…もっと… もっと強く抱いて…。」
「…ユジン…。
…ユジン…。 僕だけの… ユジン…。」
チュンサンは手探りで、壁のスイッチを消した。
部屋の灯りが消え、ふたりは同じ世界に入った。
「…チュンサン…。
…私が見える…?」
「…ああ… 見えるよ…。
…君は… 僕が見えるかい…?」
抱き合ったふたりは、ベッドの上で囁き合った。
「…ええ…。
…あなたしか見えないわ…。」
「…僕もだ… ユジン…。」
ふたりの間には、もう何も隔たりはなかった。
互いの体温と… 吐息と… 髪の香り…
「……。」
「……!」
14年の時間が、今…ひとつに溶けあおうとしている。
(君が… 好きだった…。)
(あなたが… 好きだったの…。)
長い冬の後… 雪の下に静かに生き抜いてきた花が… 今、ようやく咲こうとしている…。
「…! …チュンサン…!」
「…ユジン!」
熱い涙がふたりを薄紅色に染めていった…。
…愛の星が… 輝きながら、時を止める…。
…変わることのない… 永遠の時間…。
…ポラリスが、ここにある。
ふたりは、ひとつになった。
-了-
あとがき
これは『White Wedding ~14年目の結婚式~』の続編…です。
書くつもりもなかったのですが、「残り火」としておこうと思いまして…。
「冬の挿話」で書かなかったストーリーなども、「残り火」として書くかもしれません。
そんな作品たちを『冬の残り火』と題した書庫に入れることにしました。
あまり期待なさらないようにお願いいたします。
2006年11月22日
20:19
第2話「イ・ミニョン -その死-」
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「イ・ミニョン -その死-」
ユジンさんは、泣いている。
僕の腕の中で、止むことなく涙を流し続けている。
僕は「ごめんなさい」と繰り返すばかりだった。
ユジンさんが話してくれたチュンサンとの思い出の、たったひとつも僕には思い出せなかった。
その哀しさに、僕も泣いた。
ユジンさんは言った。
「…あなたがくれたCDと… あの手紙でわかったんです…。
…チュンサンがテープにあの曲を入れて贈ってくれたこと…
…私… 誰にも話したことがなかった…。
…あなたよね…
…あなたが… チュンサン…。」
僕は、涙を拭いて言った。
「…ユジンさん…。
…僕には… それも記憶がありません…。
…でも… …でも…」
僕は、春川の家で見つけたテープのことを語った。
「…僕には、わかりました…。
…チュンサンは…
…カン・ジュンサンは…
…確かにあなたを愛していたんです…。」
「…! ………。」
僕は、それから母に聞いたあの事故の当時の話を彼女に語った。
アン先生から聞いた事も話した。
ユジンさんは、涙をいっぱいに溜めた目で、僕の話を聞いてくれた。
話し終わると、ユジンさんの頬にまた涙がつたった。
「…ごめんなさい…。
…私… さっきは…
『悪いのは、みんなチュンサンよ』 だなんて…。
…チュンサンも… 悪くないの…。
…悪いのは… 私が… 」
そう言って、ユジンさんは、むせび泣いた。
「…ユジンさん…。
…そんなふうに言わないで…。
…僕も、悔しいのです…。
…いや… 違う…。
…一番悔しい思いをしているのは…
…この僕ではなくて… カン・ジュンサンです…。
…あなたのことを愛していた…チュンサンです…。
…今、ここで涙を流しているのは…
…イ・ミニョンではない…。
…悔しがってるのは… 哀しんでいるのは…
…間違いなくカン・ジュンサンなんです!」
「…!
チュンサン!」
ユジンさんは、僕の胸に顔を埋めて泣いた。
「…チュンサン! ごめんなさい!
ごめんなさい! ごめんなさい!」
いつまでも… ユジンさんの嗚咽は止まなかった。
*
僕は、ユジンさんにラム酒をすすめた。
少しでも落ち着いてもらいたかった。
お酒の飲めない彼女ではあったが、このままではいけないと思った。
やがて彼女は、静かになった。
僕は、彼女をベッドに運んだ。
「…ユジンさん…。
…眠ってください…。
…眠って… 心を休めてください…。」
僕は、眠った彼女に話した。
「…ユジンさん…。
僕も… 声に出して言いたかったんです…。
『僕は、カン・ジュンサンなんだ』 と。
『あなたが会いたがっていたチュンサンは、ここにいるんだ』 と。」
でも… 本当に、これでよかったのか…。
彼女にとって… 本当によかったのだろうか…。
僕は、サンヒョクさんの言葉を思い出した。
『愛しているなら、ユジンをもう苦しめないでほしい』
僕は… 彼女を…。
僕は、彼女の寝顔を見ながら考え続けた。
*
僕は、サンヒョクさんに電話した。
明日の朝… 彼女を迎えにきてほしいと。
それが、僕の決断だった。
僕は… やはりカン・ジュンサンではない…。
イ・ミニョン…。
その名前でしか生きてきた記憶を持たないのだ。
僕は… アメリカに帰ろうと決めた。
彼女を… ユジンさんを、これ以上苦しめることはできない…。
僕は… チュンサンになれないのだ…。
僕は、ユジンさんに手紙を書いた。
彼女に会えたことを、心から幸せだと思っていると…。
僕の失われた記憶の中に、彼女がいたことへの感謝をこめて…。
眠っている彼女…。
もう… 二度と会うことはないだろう…。
僕は、イ・ミニョン…。
ユジンさん…
イ・ミニョンも… 心からあなたを愛していました…。
…さようなら…。
僕は、ホテルをそっと出た。
これから… 僕は、アメリカでどういう生き方をしていったらいいのだろう…。
ぼんやりと考えながら、僕は空港に向かうシャトルバスの発車場へと向かって歩いた。
「…チュンサンッ!!」
ふいに聞こえた大きな声…。
彼女だ…。
ユジンさんが、僕に向かって一目散に駆けてくる。
僕は、それを切なく見ていた。
彼女が道を渡ってくる…。
…あ!
危ない!
ユジンさんっ!!
…大きな音… …痛み…
…ユジンさん…
… … … … … …
*
イ・ミニョンは、ユジンを守って… その日、死んだ。
-了-
あとがき
これは「冬の挿話」に書かなかったストーリーでした。
理由は… ありません。
このストーリーで流される涙は、この後のチュンサンの回帰での涙とは別の種類のもの。
それがわかる方々にだけ、読んでもらいたかったのかもしれません。
ミニョンの最後の決断は、ユジンを愛するが故のものでした。
ミニョンは確かにユジンを愛していました。
いつでも彼は、その愛でユジンを包み、傷を癒してあげました。
最後にユジンの元から去ることを決めたのも、彼なりの愛の形。
彼は、本当に最後に…
自らの死をもって、ユジンにチュンサンを返してくれました。
それが彼の…愛の贈り物…。
※Yahoo!blogから移行できなかったコメントを追加しました。
1
続々のup,ありがとうございます。でも,お仕事お忙しいのでしょう?無理をなさっていませんか?ところで,14話…ミニョンの愛の形…辛いですね。そして,2度目の事故でミニョンが死んで,チュンサンが甦ったわけですね。それが彼の贈り物…そういう考え方はよくわかりますが,とても切ない。目頭が熱くなってしまいました。
2006/11/22(水) 午後 10:14子 狸
2
チェリンの『ミニョンさんを返して!』というセリフを頭に置きながら書きました。ミニョンという「作られた」人格は、この日死んだのです。それを心から悲しんだのは、やはりチェリンでしょうね…。
2006/11/22(水) 午後 10:20poppo
3
自らの死をもって、ユジンにチュンサンを返してくれました>そうなんだって、これぞ目からウロコでした。心の中にストンと落ちてくる感じ。Poppoさんのお話を読むと何回もそういうことがあります。
2006/11/22(水) 午後 10:23あとむまま
4
チュンサンが蘇ったことに涙する視聴者がほとんどでしょう。でもね…物事には、必ず表と裏があるんです。ミニョンは、身を挺してユジンを守り…消えていったんです。その後のチュンサンは、やはりミニョンではないんです。ユジンの心を大きな愛で包んでいたあのミニョンは…亡くなったのだと…僕は、そう思いながらドラマを観ていました。他の人と違う見方ですから、「挿話」に入れなかったのかな…。
2006/11/22(水) 午後 10:32poppo
2006年11月27日
21:21
第3話「-出会い- ~彼… カン・ジュンサン~」
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「-出会い- ~彼… カン・ジュンサン~」
(いったいどこまで来ちゃったんだろう…。)
私は、あたりを見回しながら不安になった。
すぐそばには湖が見える。
春川湖の方にまで来てしまったんだろうか…?
私は、そいつに言った。
「起こしてよ!」
こいつが起こしてくれさえすれば…。
私は、そいつをしげしげと見た。
見たことのない男の子…。
でも、同じ第一高校の生徒らしい。
「何年生なの?」
「…2年。」
そいつが答えた。
なんだ、同じ学年だ。
「カガメールが怖くないの?
…あなたみたいな図太い人、初めてよ!」
ああ… 考えただけで憂鬱…。
また『遅刻魔』と言われるに決まってる…。
でも、まだ間に合うかも…。
私は、言った。
「早くタクシーに乗るわよ!」
こいつにタクシー代の半分は出してもらわなくっちゃ!
そいつは… 面倒臭そうに、ついてきた。
*
タクシーはすぐにつかまった。
私たちは、一緒に乗り込んだ。
「…どちらまで?」
運転士が、助手席のそいつに聞いた。
「……。」
そいつは黙っている。
私は後部座席から言った。
「春川第一高校までお願いします!」
「……。」
そいつは、やはり黙ったままだった。
タクシーは、やがて見覚えのある道に入った。
やはり春川湖の方まで行ったらしい。
私は腕時計を見た。
何とか間に合うかもしれない…。
私は、ほっと安堵のためいきをついた。
その私の目に、料金メーターの数字が飛び込んできた。
(…! やられた!!)
とんでもない金額が表示されている。
私は、愕然としながらも、財布の中身をこっそり確認した。
だめだ…。
このぶんだと、こいつと割り勘にしたところで… お昼は抜きになるだろう…。
私は、泣きたい気持ちで、そいつを睨んだ。
そいつにも、私の殺気が伝わったのか… ちらりと振り返ると、すぐにうつむいていた。
(…?)
ん…? なんだか変なやつ…。
どうも… 笑っているらしい…。
…あ…。 私が財布を調べているのに気づいたのか!
そいつが急に運転士に言った。
「…すいません…。
これだけ払いますから、もっと急いでください。」
そいつの手には、かなりの枚数の10000ウォン紙幣が握られていた。
「…お! …いいのかい? 坊や…。
…じゃあ… 飛ばすぜ!」
私はそいつに言った。
「私は…いくら払えばいいの…?」
そいつは返事もしなかった。
黙ったまま、窓の外を眺めていた。
タクシーは、あっという間に学校の付近に着いた。
車内での、そいつとの気まずい雰囲気に耐えきれず、私はタクシーから降りると走り出した。
しかし… やはりそいつが気になった。
立ち止まって振り返ると、そいつはのんびりと…
電柱に寄りかかっている。
このままじゃ、せっかくのタクシー代も無駄になる…。
「…! ちょっと! 何してるのよ!」
そいつは、ゆっくりとポケットから一本の煙草を取り出すと、それに火を着けた。
(…うそ…! …煙草なんて…)
私は、辺りに先生たちがいないか見回した。
その心配をよそに、そいつは気持ちよさそうに空に向かって煙を吐いた。
(…! …もう!!)
私は、そいつのことは諦めて、校門に向かって走った。
…それが…
…あいつ… 彼…
『カン・ジュンサン』との出会いだった…。
-了-
あとがき
特に述べることはありません。
こんな感じだったかな…なんて思っただけです。
2006年11月30日
23:11
第4話「愛するがゆえに…」
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「愛するがゆえに…」
サンヒョクに急かされて、私は空港に向かった。
しかし… 彼の乗った便は、すでに発った後だった…。
彼は… チュンサンは… ニューヨークへと、ひとり去ってしまった。
真実を…告げず… 自らの命のことさえ…教えてくれずに…。
私には… 彼の心がわからなかった。
「…ユジン…。
とにかく、この病院に行けよ…。
…先生に会って、チュンサンの症状について話を聞いてくるんだ。」
サンヒョクが、その病院の名前を書いたメモを手渡してくれた。
私は、ただ黙ってうなずいた。
*
次の日の朝。
私は、眠れぬ夜から這い出るようにして、そのメモにあったソンジ病院を訪れた。
そして、彼の担当医の先生に面会を求めた。
「…先生…。
彼の… カン・ジュンサンの後遺症は… そんなにひどいものなのでしょうか…。
教えてください…。 先生…。」
ドクターは、私が受付に出した面会カードを見ながら言った。
「…申し訳ありませんが… 患者さんのことを、あなたに話すことはできません。
それは、プライバシーにかかわることですから。
…失礼ですが… あなたと、この患者さんとのご関係は…?」
ドクターは、じっと私を見つめている。
私は、その目を見た。
そして… 言った。
「…彼は… 私の…夫です…。」
私は、迷うことなくそう告げた。
もはや誰に恥じることもない。
彼は… 私が、ただひとり心から愛した運命の人なのだ。
後は、何も言えなかった…。
あふれる涙を抑えきれぬまま、私は声をはなって泣いた。
ドクターは、いつまでも私を泣かせてくれた。
… … … …
やがて、ドクターは話してくれた。
彼の脳に見つかった腫瘍のことも。
手術の必要性と緊急性も。
アメリカでの手術の方が、より成功率が高いことも。
そして、彼がそのことを冷静に受け止めていたことも…。
私は… 彼の心を知って… また、泣いた。
*
今、私はパリに向かう飛行機の中にいる。
私は… 彼を追わなかった。
サンヒョクがくれたニューヨーク行きのチケットも… 使わなかった。
彼の心を… 愛を知ったから…。
彼を信じているから…。
彼の決断に、私も従うことを誓ったから…。
彼と… 約束したのだから…。
彼は… 永遠の愛を誓った、私の夫…。
何があろうとも、私たちの絆は消えない…。
運命は… 信じるもの…。
私は、彼との運命を… 愛を信じる…。
たとえ… 残酷な優しさであっても…
たとえ… 冷酷ないたわりであっても…
私は… チュンサンを愛している…。
…愛しているの…
…チュンサン…
…愛しているのよ…。
私は、アイマスクを取りだした。
そして、それを着けた闇の中で… 彼を想って泣き続けた。
-了-
あとがき
これは、ユジンがニューヨークに行かなかった理由について最初に書いたもの。
しかし、ボツにしました。
まだ少し… ユジンの本当の心にたどり着けていない気がしたのです。
どうでしょうかね…。
2006年12月12日
20:00
第5話「EVE EVE」
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「EVE EVE」
明日はクリスマス・イヴ。
ユジンとチンスクは、リビングの飾り付けを行っていた。
小さなクリスマス・ツリーに、窓ガラスへのペイント。
あれこれ相談しながら、にぎやかになっていく部屋の雰囲気を楽しんでいた。
「それにしても、ずいぶん買い込んだわね…
チンスク…。 大丈夫なの?」
アルバイトで手にしたお金も、これではあっという間に使い果たしてしまっただろう。
「いいのよ。クリスマスなんだから。
素敵に飾って、今年こそ願いをかなえてもらわなくっちゃ…。」
高校を卒業した後、デザイン専門学校に進学したチンスクだった。
元々、雑貨を集めるのが好きだった彼女は、自分でも可愛い物を作りたいという夢があったのである。
共同生活を始めても、こまごまとした雑貨を、アルバイトの給料が入る度に買い集めていた。
「…このツリーも素敵ね…。高かったでしょう?
…『Santa Claus.U.S.A.Corporation』… 何? わざわざアメリカから取り寄せたの?」
ユジンが呆れた顔でたずねると、
「えへへ… ちょっと無理しちゃった!
でも、また来年も使えるからいいでしょう?」
チンスクは、にこにこと笑っている。
ユジンも、笑うしかなかった。
「ねえ… ユジン…。
…覚えてる?」
チンスクが、ツリーに飾りを付けながら言った。
「…ん? 何を?」
ユジンも、小さな雪玉を付けながら聞いた。
「…高校の時… みんなで山小屋に行った時のこと…。
…あの時も、こんな風に一緒に飾り付けをしたわね…。」
ユジンは、ふっと遠い目をしながら言った。
「…もちろん… 覚えてるわ…。
もう… 2年になるわね…。」
「あの時は、放送部のみんながいたわね…。
…あ、思い出した…。
チェリンったら… あたしが飾るとすぐにケチばかりつけて…。
今でも、頭にきちゃう…!」
「…そうだった?
…きっと、あの子… 自分のイメージを大事にしたかったのよ。
なにせ、今では服飾デザイナーを目指して頑張ってるそうだから…。」
ユジンの中にも、あの時の景色が浮かんできていた。
「みんなで、物語を作ったりもしたわよね?
私がせっかくロマンチックなものを考えてたのに…
ヨングクったら… 変な話にして…。
あいつにも、頭にくるわ。」
ユジンは、おかしそうに笑っている。
(…頭にくるほど… 嫌ってもいないくせに…)
ユジンの微笑みには気づかず、チンスクはまた続けた。
「…チョルスとヨンヒのお話だったわよね…。
それもミンスが出てきて…三角関係なんかになっちゃって…。
ユジンもがっかりしたでしょう?」
「…え…?
………。
…ごめんね… 私… 覚えていないの…。
あのお話… 最後はどうなったの…?」
ユジンは思い出した。
あの時、あまりにその物語が切なくて、そっと席を立ったことを…。
チュンサンの言葉を、すべて信じられなくなって…。
「…あの話の終わり?
…どうだったっけ…。
…あ。 思い出したわ…。
ミンスはね、ヨンヒの前から姿を消すのよ…。
その前に… 最後にミンスがヨンヒに会いに行くの。
ヨングクにしては、割とマシな流れよね。
…で、最後がチュンサンの番で…
ミンスがヨンヒに言うのよ…。
……ユジン…?
…あ…
…ユジン… ………。」
黙ってうつむいているユジンの目から、ひとしずくこぼれた涙に、チンスクは気がついた。
「…ユジン…。
…大丈夫…?」
ユジンは、手でまぶたをぬぐうと、クスっと鼻をすすって笑った。
「…大丈夫よ。
…それで… チュンサンは、なんて?」
チンスクは、そんなユジンの顔を切なそうに見ながら言った。
「…チュンサンはね…
『ミンスは… ヨンヒに言いました…。 …ごめん… 』
………。」
「………。」
ユジンは、また黙ってうつむいた。
その肩が、震えていた。
彼の… チュンサンの言葉に…嘘はなかったのだと思った。
チンスクは、そっと窓の方に去った。
ユジンの悲しみが、手に取るようにわかっていた。
窓の外には、凍った星空が見えた。
「ユジン…。
…チュンサンは… 星になったのよ…。
…きれいな星に…。
…見て。
…もしかしたら、あの星かも…。」
ユジンも窓辺に向かい、チンスクの指さした方を見た。
「…あんなに… 明るい星じゃないわよ…。
…あいつ… 明るい人ではなかったわ…。」
ユジンは、小さく笑った。
「…! …じゃあ… あ、あれかも…。
…ちょっと暗くって… ひとつだけ、ぽつんと…。」
(……? ……。 ……!)
チンスクが指さした星は… 北極星…。
遠く、静かにまたたいている…。
「………。」
ユジンは、その星のまたたきを、潤んだ目で見つめている。
「…ユジン…。
…私には… 話していいんだよ… チュンサンのこと…。
…サンヒョクには、言えないでしょう…?」
「……。
…チンスク…。
…ありがとう…。」
ユジンは、友の顔を見つめた。
その友の目も、小さく潤んでいる。
その目を、こすりながらチンスクは言った。
「…さあ、飾り付けが終わったら、今度はケーキ作りよ!
昼間、トマトもたくさん買ってきたんだから!
腕によりをかけて作るわよ!
ユジンも手伝ってよね!」
ユジンも笑顔に戻って、言った。
「…ん? …誰のために?
…チンスク…
私になら、言ってもいいのよ!」
「まあ、ユジンったら!!
からかわないでよ~!」
ふたりは、お互いの顔を見合って笑い転げた。
ツリーの先の星が、優しく光っていた。
-了-
あとがき
これもボツにしてあったストーリー。
ですが、今回「とまとさん」と「うさこさん」のために、引っ張りだしてきました。
もちろん少し書き直してあります。
お二人への、ちょっと早めのクリスマスプレゼントです。
タイトルも二人のイヴ=女神のために。
ですから、キーワードは「とまと」と「うさこ」。
韓国では、ケーキの上にトマトを載せるのだと、何かで読んだことがあります。
日本ではイチゴが定番ですが、韓国はトマトもフルーツなんだとか。
トマト・ジュースも甘いらしいですよ。
「とまと」はわかったけど、「うさこ」は?という方…
よく見てくださいね。
U S A C O …ほら! あったでしょ?
2006年12月24日
11:00
第6話「誕生」
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『冬の残り火』
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「誕生」
小さな寝息をたてて… 眠っているこの子…。
私はなぜ、この子を産んだのだろう…。
あの人への憎しみの中で、私が決めた選択…。
なぜ…。
誰からも、祝福されないこの子の命…。
この命を守ることを、私はこれからの生きる糧としていけるのだろうか…。
この子は、何のために生まれてきたのか…。
誰のために、生きていくのか…。
それを私は、私自身に問うていくのかもしれない。
少なくとも、この子は私を死ぬことから救ってくれた。
この子を宿したことを知って、私は死ぬことを諦めた。
私に課せられた運命に、逆らってみようと決めた。
あの人が別の幸せを選んだ今… 私も、別の幸せを選ぶのだ。
この子を… あの人の子と思って育てていこう。
安らかな寝顔…。
そこには、あの人の面影はない。
でも、きっとこの子はあの人に似た子どもになると信じている。
私は、そう信じている…。
私は、この子に『チュンサン』と名づけた。
『カン・ジュンサン』…
父親を知ることのない、かわいそうな子…。
そう…。
お前の父は… 私を捨てた男なのだ。
お前は、私の悲しみをわかってくれるはず…。
その小さな手で、私のこの心を温めておくれ…。
私の、冷え切った心を抱いておくれ…。
チュンサン…。
お前は、私の子…。
寒く、冷たい雪が舞うこの冬の日に、ひとりぼっちの私に授けられた温かな命…。
お前と私は、これから身体を寄せ合って生きていくのよ…。
泣くまいとしても…
恨むまいとしても…
私には、それを抑えることができない…。
チュンサン…。
お前だけが… お前だけが… 私に生きる希望を与えてくれるのよ…。
チュンサン…。
チュンサン…。
ごめんなさい…。
あなたを… こんな私が産んでしまって…。
チュンサン…。
チュンサン…。
愛おしい… 私の子…。
-了-
あとがき
ミヒの心は、正直なところよくわかりません。
しかし、チュンサンを産んで、たったひとりで育ててきたのは確かなこと。
母としての願いは、必ずそこにはあったと思うのです。
添付した画像は、生後2日目の赤ちゃんの手。
その手に、しっかりと幸せの鍵を握らせてあげたいですね。
2006年12月24日
23:45
第7話「林檎」
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『冬の残り火』
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「林檎」
「結婚…できません!」
そう言って、人々の席から飛び出した私を、ミニョンさんは抱き止めてくれた。
「…もう、離さない…。 …誰にも渡さない…。」
私は、その言葉に身を委ねた。
「…僕の言うとおりにするのです…。 いいですね?
…僕についてきてください…。」
私は、うなずいた。
彼と… ミニョンさんと…
私は、後ろを振り返らずに、彼とともにスキー場をあとにした。
これが、自分の運命なのだと思いこもうとしていた。
彼は私を、その別荘へといざなった。
もう…後戻りはできない…。
私は、そう思っていた。
そこで出会った彼のお母様…。
私は、恥ずかしかった。
ふしだらな女と見られることを怖れたのではない。
彼に… 嘘をつかせたことが恥ずかしかった。
ふたりきりになった…。
彼は、優しく私の心を包んでくれた。
私の哀しみも怖れも… 全て彼の言葉が温かくくるんでくれた。
この身体も… 彼のコートの中で…
私は、初めて心の安らぎを知った。
いや… あの頃と… あの人と…同じように…。
彼は、私のために部屋を用意してくれた。
「僕は、2階で寝ますから。」
私は、とまどった。
今夜… 彼と… そうなることも覚悟していたから…。
彼は、明るく言った。
「おやすみ。」
この人なら… 信じていける…。
「…あ。 そうだ…。」
階段を昇りかけた彼が振り返った。
「ユジンさん… 何がお好きですか?」
「…え? …何…とおっしゃると?」
「…明日の朝食ですよ。
何が食べたいですか?」
彼の目が笑っている。
「…何でも…。」
そう答えた私に、彼は言った。
「…いつもは、朝、何を召し上がってるんです?」
「…そうですね…。 …果物とか…」
「…ああ、果物ですか。
…果物は何が好きです?」
「…どうして、そんなに聞くんです?」
私は、あの日を思い出してしまっていた。
「…前に言ったはずですよ…。
…覚えておきたいんです。
あなたのことを… 何でも。」
(………。)
私の胸は、つぶれそうになった。
「…何でも…」
あの日… 好きな食べ物を尋ねた私に、チュンサンはそう答えたのだった…。
「…何でも?
それならよかった。
じゃあ、おやすみなさい…。」
私のつぶやきを、ミニョンさんは勘違いしたようだ。
私は、彼の優しさに感謝しながら、眠った。
*
目覚めた私は、リビングに入った。
ミニョンさんの姿はなく、テーブルの上には林檎と蜜柑、そしてプチトマトが載せられていた。
ミルクも添えられ、そのカップの上には埃除けだろう… ナプキンが乗っていた。
彼の心遣いがうれしかった。
彼は、早朝の市場に出かけていたらしい。
大きな魚を買ってきた。
それを彼は料理し始めた。
危なっかしい手つきで…。
「作ってあげたいんです」
彼は、そう言った。
…優しい人…。
でも… 結局、私が包丁を持つことになった。
そして、私たちの初めての朝食…。
彼は、言った。
「ユジンさん… ありがとう。」
私は、驚いた。
朝食を作って、お礼を言われることなど初めてだった。
彼は、いつもひとりで食べていると言った。
この人も… チュンサンと同じ…。
私も、こんなに穏やかな朝食は久しぶりだった。
彼は私の作った料理を、「美味しい」と言ってきれいに食べてくれた。
それも、私にはうれしかった。
「…林檎… 剥きましょうか?」
私は彼に言った。
彼が用意してくれた林檎が、そのままになっていた。
「私が剥きますから、食べてください。
朝の林檎は、美容にいいんですよ。
…あ。男の方にはどうだかわかりませんが…。」
「…ええ、いただきますよ。
僕が剥くと言っても、剥かせてくれないでしょう?」
先刻切った指先を見ながら、彼は笑った。
「…私、林檎が好きなんです。
…覚えておいてくれますか?」
私がそう言うと、彼は目を細めてうなずいた。
*
あの、心が温かく包まれた日々は、もう遠い記憶…。
私は、ミニョンさんから離れる道を選んだ。
サンヒョクと…。
これからは、サンヒョクと生きることに決めたのだ。
全ては、回り道だったと…。
ほんの少し… 私は、道を逸れたのだと思うことにした。
今は、サンヒョクのために、こうして林檎を剥いている。
これが、これからの私の人生なのだ。
なのに…。
サンヒョクが言った。
「今日、ミニョンさんを見かけたよ…。」
私は、心を抑えられない…。
どうして… この人は…。
私は、しかたなく彼に問うた。
彼が安心できる答えを教えてくれと問うた。
彼は… 口をつぐんだ。
彼も… 私の心のどこかにある、ミニョンさんの姿を見ているのかもしれない…。
ごめんなさい… サンヒョク…。
私の言葉にサンヒョクは言った。
「それ以上、正直になるな。」
彼には… 私の本当の心が見えているのだ。
なのに… なぜ…。
私は、言った。
「もうこの話はよしましょう。」
彼もうなずいた。
私は、林檎を彼に勧めた。
今日、市場で買ってきた林檎…。
何の変哲もない、その林檎。
私は… 『禁断の果実』を口にしたのかもしれない…。
これからは、楽園を追われた罪人のように、生きていくしかないのだろうか…。
2つ…おまけにもらった林檎…。
あの人との記憶も、私の人生には、おまけのような時間…。
口の中の林檎が、急に涙の味に変わっていった。
哀しい味…。
切ない味…。
なのに、懐かしく恋しい…。
サンヒョクの視線に気づいた私は、その林檎を涙と一緒に飲み込んだ。
-了-
あとがき
これもボツ原稿の中から。
「冬ソナ」本編の第9話~第11話あたりの場面をつなぐストーリーです。
「朝の林檎は、美容にいいのよ」
そう言って、パクパク食べるチェ・ジウssiの映像もありましたね。
「挿話」を書くのも、なかなか難しい…。
そう思い始めた頃の作品です。
2006年12月31日
10:22
第8話「夢 その2」
カテゴリ
『冬の残り火』
poppo2019r1
コメント(6)
「夢 その2」
龍平のスキー場。
私たちはロープウェイで山頂に登った。
そこは一面の銀世界。
まだ誰の足跡もない美しく白い雪の国。
私たちだけがここにいる。
チュンサンとふたり… その雪の中を歩いている。
木々の梢に付いた雪を彼がはじくと、それはきらきらと星のように輝いて舞った。
日の光を受けて、私たちをまぶしく包んでくれる。
私は彼の後ろから、そっと雪を投げてみた。
「…! こいつ! やったな!」
彼は、明るく笑うと私にも雪を投げ返してきた。
私も負けずにまた投げ返した。
ふたりの髪に、雪が舞いかかる。
その雪は… 不思議に温かかった…。
私たちは、子供みたいにふざけ合った。
あの日の…私たちのように…。
「ユジン! ほら… いくよ!」
両手いっぱいに抱えた雪を、彼は私の上から降らせた。
あの… 懐かしい焼却場と同じ…彼の笑顔…。
「チュンサン! もう~!」
私は笑いながら、彼にお返しした。
彼は、私を抱き寄せた。
温かな胸…。
優しい腕…。
誰よりも… 愛しい人。
「ユジン… ほら… ここの雪はおいしいよ!」
彼が、雪を口にしながら言った。
「…本当?」
私もおそるおそる雪を口に入れた。
「…本当!
…冷たくて… おいしい…かも。」
「…だろう?
きれいな雪だね…。」
彼はまた雪を口にした。
そして…
彼は、私にそのままくちづけた。
「…チュンサン!
…また… あなたっていつも、人の油断をついて…」
あの日の…KISS…。
私たちの… 初めてのKISS…。
「…君が、あんまり大きな口を開けてるからさ。
そういえば、昔君が作った雪だるまも、大きな口だったね。」
ふたりで遊んだあの湖畔を、彼は思い出しているようだ。
「…そうね…。
あなた… あの雪だるまをPOPPOさせたりして…」
「また作ってみようか… 雪だるま…。」
そう言って、彼は雪を固めはじめた。
私も、一緒に雪を丸めはじめた。
「…うまく…いかないな…。」
パウダースノーのせいか、なかなか雪が固まらない。
ふたりで一生懸命雪を集めても、すぐに形が崩れていく。
ようやくひとつ… 雪だるまができた。
…なのに…
それは、急に巻き起こった風に… あっという間に崩れ、粉々になって消え去っていった…。
………!
「…ユジン!」
私の名を呼ぶ彼の声が聞こえた。
激しい風…。
その中で、彼は私の身体を強く抱いた。
耳元を吹きすさんでいく嵐の声…。
吹き抜けていく雪で、何も見えない…。
しかし、私には彼の鼓動が伝わっている。
彼の温かさ…。
ふたりだけの…世界…。
私は、一生このままでいいとさえ、思った。
… … … …
(…なんだ…。 また夢か…。)
私は、目を覚ました。
また、彼の夢を見ていたらしい…。
あの懐かしい雪の日の思い出…。
彼の笑顔… ぬくもり…
もう… どこにもなかった。
私は、枕元の時計を見た。
午前3時20分…。
小さな夜光の針が、時を刻んでいる。
変わることなく…
これからも… いつまでも…。
今の私には、時間はただの景色。
目の前を流れていくだけの、旅人のよう…。
立ち止まったままの私には、いつまでも彼との時間が宝物なのだ。
窓の外に、またたく光…。
美しく飾られたクリスマス・ツリーが見えた。
(…そうか… 今日はクリスマス・イヴなんだ…)
チュンサンはどうしているだろう…。
アメリカで手術を受けたはずの彼…。
私には『メリー・クリスマス!』と一言書いたカードさえ…贈ることはできない…。
あれからもうじき3年になろうとしている。
私は、まだあの頃を忘れてはいない。
あの… 懐かしい季節…。
白く… 透明な色を帯びたまぶしい季節…。
雪の温かさを、初めて知った季節…。
彼を、心から愛した日々…。
彼の優しく笑った顔…。
教会で彼が言ったプロポーズの言葉が、今もこの胸に残っている。
すべては…白い世界…。
影の国から私の手をひいて、そのまぶしさを教えてくれた彼…。
私は今でもはっきりと言える。
好きな色は… 白。
好きな季節は… 冬。
好きな人は… チュンサン… あなただけよ…。
私はベッドを出ると、窓の方へ行き、少し風を入れた。
ひんやりと冬の風が舞い込んできた。
パリの街にも、やがて初雪が降るだろう。
私の大好きな雪…。
その雪は、決して冷たいものではない。
この私の心を寒く凍らせるものでもない。
むしろ温かく… 優しい空からの贈り物。
私の想いは、今もあなたへ…。
いつまでも… 熱く…キャンドルの炎のように…。
雪の中でも、消えたりはしないだろう…。
もうすぐ、私はソウルに戻る。
また… あの街で生きていくの…。
冬が終わる頃… 新しい季節の中で生きていくのよ…。
あなたの心を感じながら…。
チュンサン…。
元気でいるの…?
私を… 離れていても、見守っていてちょうだいね…。
チュンサン…。
チュンサン…。
-了-
あとがき
これもボツ原稿の中から。
「冬の挿話 100」のユジン・バージョンです。
少し書き直してみました。
チュンサンとは違い、ユジンの持つ強さを描きたかったのですが、あまりうまく書けませんでした。
立ち止まったままのユジンではなく、チュンサンへの愛を抱いたまま前に進むユジンを書きたかったのですが…。
嵐の中で抱き合うふたり…。
そのイメージが気に入ってます。
2007年01月01日
10:15
第9話「山小屋の朝」
カテゴリ
『冬の残り火』
poppo2019r1
コメント(12)
「山小屋の朝」
山小屋の朝。
僕は、誰よりも早く起きると、外に出た。
まだ空気は冷え切っていたが、気持ちが良かった。
山を覆っていた霧も、朝日に暖められて消えていった。
小鳥たちの声が、僕の耳に歌ってくれている。
やがて、約束通り、彼女が現れた。
「早かったわね。」
ユジンは言った。
「おはよう。
…寒くない?」
薄着の彼女を見て、僕は言った。
「大丈夫。」
彼女はそう答えたが… この冷え込みだ。
「…これ…着ろよ。」
僕は、自分のジャケットを脱いだ。
「大丈夫よ。」
「着てろって。」
僕は、彼女の肩にそれをかけた。
「…ありがとう。」
彼女は、微笑んだ。
その笑顔が、僕の心を温かくしていく…。
「眠れた?」
僕はたずねた。
「ううん… ちっとも。
チェリンとチンスクのおしゃべりで…。
ずっとしゃべってるんだもの…。」
ユジンは笑いながらそう言った。
「何の話?」
「…え?
…それは… 秘密…。
…女の子同士の秘密よ。」
「…秘密…か。
…気になるな…。」
「…あなたは?
よく眠った?」
「ああ。よく寝たよ。
男たちは… さっさと眠ったよ。」
僕は、昨夜のことを思った。
部屋に戻ったサンヒョクは、さっさとベッドに入ってしまった。
僕と話していたヨングクに、
「…早く寝ろよ。
灯りも消してくれよ。」
ヨングクも渋々ベッドに入ったのだった。
僕は、サンヒョクの気持ちに気づいていた。
「…ユジン…。
足は、まだ痛む?」
僕は聞いた。
「…ううん、もう平気よ。
ちょっと擦りむいただけだから…。」
「…ごめんな…。」
「…?
…なんであなたが謝るの?」
「…だって…」
僕の顔を見つめながら、彼女は笑った。
「…昨日はありがとうね。
あなたが見つけてくれなかったら…」
「…徹夜で… 今頃爆睡か?」
「…! また!」
僕たちは、笑い合った。
彼女の笑顔を見ていると、どうしてこんなに心が安らぐのだろう。
彼女に会ってから… 僕は、不思議な気持ちになっている。
もう… 父のことなどどうでもよい気になっていた。
自分の父親が誰であろうと、僕には彼女… ユジンがいる…。
ユジンといるだけで、僕は寂しさなど感じたりはしない…。
気になるのは、サンヒョクのこと…。
「…ユジン…。」
「…なあに?」
振り向いた彼女に、僕は言った。
「…サンヒョクのやつに…
…優しくしてやってくれないか…。」
「…え? サンヒョクに?
………。
…あなたがそんなことを言うなんて…
…なんだか変ね…。」
ユジンは、いぶかしそうに僕を見た。
僕は、彼女の視線を除けながら言った。
「…あいつにも… 悪かったから…。
…俺… 本当は…」
自分でも、よくわからない感情だった。
なぜか、サンヒョクに対する自分の気持ちも変わってきたような気がする…。
「…あなた…
…本当は、彼と友達になりたいのよ…。
…わかったわ…。
…私からも、『誤解』を解いておくから…。」
…誤解…
…僕は、すべてを話せない苦しさを、また感じていた。
「…あ。そろそろ、朝ご飯の時間…。
チンスクに怒られちゃうわ!
さあ、戻りましょう!」
ユジンはそう言うと、僕に手を差し出した。
「……!」
僕は、その手を握った。
そして、一緒に山小屋への道を歩き出した。
「…また薪割りをしてもらうわよ!」
ユジンの笑顔…。
「…ああ。
…朝食は何かな…?」
「…秘密。
…それも、秘密よ!」
「…ちぇっ!
…秘密の多いやつだな…。」
「……!!」
僕たちは、また笑い合いながら歩いた。
彼女の頬が、朝日に輝いてきれいだった。
ユジン…。
僕は… 君のことを…。
ユジン…。
-了-
あとがき
ネタ帳の隅に埋もれてたストーリーを、書き出してみました。
新年の朝。
僕の部屋も、少しずつ暖かくなっていきました。
ユジンと心が通うようになって、チュンサンは変わっていったと思います。
父親のことも、もうあまりこだわらなくなっていったのではないかと、僕はそう思いました。
なのに… また、あの写真がチュンサンの心を乱したのだと。
山小屋からの帰り。
駅前で、先に帰ると言い出したサンヒョク。
それを追うことにしたユジンとチュンサンのアイサインが、このストーリーを書くきっかけでした。
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書庫一覧
短編集 『冬の挿話』 (109)
目次版 『冬の挿話』 (1)
長編『冬のコンチェルト』 (71)
長編『夏のメモランダム』 (70)
長編『ブルゴーニュの風』 (62)
『冬の残り火』 (53)
合作『WhiteWedding』 (47)
連作『お昼の校内放送』 (49)
連作『冬ソナで食べたい!』 (25)
連作『If…』 (34)
『冬のソナタ』ネタ帳 (23)
『登場人物へのインタビュー』 (9)
『ソナチアンの人々』 (1)
『掲示板』 (63)
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