「山小屋の二人」
「とにかく寒いから中に入ろう」
ヨングクの言葉に、6人は山小屋に戻った。
痛めた足を少し引きずりながら、ユジンはフロアの隅のベンチに腰掛けた。
「本当に大丈夫?」
チンスクが心配そうに尋ねた。
「…大丈夫…。ちょっと転んだだけだから… 心配しないで…。」
ユジンの弱々しい微笑をにらみながら、チェリンが言った。
「じゃぁ、私は先に休むわね。 …もう… あちこちが冷えちゃって最悪!」
「そうだな。今夜はもう寝た方がいいだろうな。俺も部屋に戻るよ。」
「……。 僕も寝るよ。」
ヨングクとサンヒョクも部屋に戻って行った。
「ユジン…。私たちも休まない…?」
チンスクは片手であくびを隠しながら言った。
「うん…。 私は… ちょっとお湯を沸かしてから…。
そう… お茶であったまってから眠るわ。」
*
「まだ… 足が痛むのか?」
一人、フロアに残ったユジンに、チュンサンが戻ってきて言った。
「…ん? まだ起きてたの?」
ユジンは、紅茶のカップをテーブルに置いて振り返った。
「…まだ… 眠くはないから…」
チュンサンは口元に少し笑みを浮かべて言った。
「ユジン… これを使えよ。」
テーブルの上に投げられたのは、湿布薬の袋だった。
「…これを…? …私に…?」
「…ああ…。 借りは作りたくないんだ…。」
「…! あ。 これ… 私がいつかあげたやつじゃない!」
湿布薬の袋には、あの夜ユジンが買った薬局の店名が書かれていた。
二人は顔を見合わせて笑った。
「さぁ、足を出して… 俺が貼ってやるよ。」
「…え… そりゃぁ… ありがたい!」
おどけるユジンの足元に、チュンサンが膝をついた。
ユジンはおとなしく足を出し、チュンサンが湿布薬を貼ってくれるのを見つめていた。
*
「さあて… これでよし…っと。 …ユジン… あとは部屋に戻って、早く休んだ方がいいよ。」
「…ありがとう… チュンサン…。」
ユジンはようやく暖まり始めた身体を大きく伸ばして立ち上がった。
「ねぇ… 明日は… どうするの?」
ヨングクの話では、お昼前には町に戻ることになっていた。
「そうだな…。 とりあえず… 朝は誰かと散歩かな…」
チュンサンも背伸びをしながら答えた。
「…誰かって?」
「…さぁね…。 ユジン… ちゃんと寝ろよ… おやすみ…」
小さく笑って、チュンサンは部屋に戻って行った。
( … … …! )
ユジンは、頬まで温かくなってきたのを感じていた。
窓の外を見ると、またあのポラリスが小さく輝いているのが見えた。
-了-
あとがき
これもごみ箱から拾ってきたボツ原稿の手直し。
短かすぎて挿話にもなりませんね。
見たことのあるセリフをいくつか使って書いた初期の原稿です。
高校生の時代の二人を書くのは意外と難しいです。
ユジンの明るさを書けば書くほど気分が沈んでいくのです。
コメント一覧 (10)
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- 2019年04月27日 14:20
- コメントありがとうございます。
確かに真面目な6人ですね。
さて…この連休明けにはいよいよブログの引越しがありますから、少しでも書いておきたいと思っています。
あいにくボツ原稿の間に合わせばかりですが、「ブルゴーニュの風」の方は再開準備を始めています。
さすがに10年も経つと記憶が薄らいだり、書きにくい風潮になったりしますね。
ちょっと冬ソナ本編を離れて「ソナチアンの人々」という挿話も書き溜めているんです。
冬ソナに心を奪われた人たち… 面白そうなテーマでしょう?
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- 2019年04月27日 18:20
- 前にも書きましたが、私だったらこの6人みたいに真面目ではなく、
あんなこともこんなこともやったはず(笑)
いよいよお引越しですね。
その前にいろいろと準備されているのですか?
他力本願ですが、楽しみにしています。
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- 2019年04月27日 22:32
- 引越し作業自体はさほど難しくはありませんが、データの保存は少々面倒です。
何より残念なのは皆さんからのコメントが保存されないこと。そしてあの連作のリンク付け。皆さんと書いた、それぞれの作品をもう一度つなぎ合わせるのは、おそらく一苦労でしょうね。残せるものは精一杯保存してはいますが。
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- 2019年04月28日 08:10
- リレーメンバー相互のリンク…これって、全員がどこかに…できれば同じサイトにお引越ししないと厳しいですよね。阿波の局さまのように、消えちゃわないブログ…サイトにブログをお持ちならよいのですが。すでに、ブログリンクできなくなっている方もいるようですし。
コメント…心温まるコメントの数々…こちらも捨てがたい…作品の一部ですものね。
皆さんに了解してもらって、リンクではなく、原文貼り付けにするというのは…無理でしょうか?画像等はつらいかな?
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- 2019年04月28日 09:32
- おはようございます。仔狸さん。
仰る通り、原文貼り付けが一番簡単ですし、コメントも含めて残すことも可能です。
ただ、僕の一存でできることではありません。仮に皆さんがご了承くださっても、それぞれのお部屋のコメントは、それぞれのお部屋の方々へのものですから、勝手に載せて良いものではありません。
それら全ての方々から了解を得るのは不可能でしょう。
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- 2019年04月28日 09:40
- 特に「内緒」のコメントは絶対に乗せてはいけませんし、場合によっては消去の要請に応えなくてはなりません。
画像や目次のリンクもやり直しになるでしょう。
結局は12月までの長~い作業になるかもしれませんね。
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- 2019年04月28日 09:54
- そうですよね…いろいろと配慮しなければならない点がありますものね。すべてクリアするのは、おっしゃる通りたいへんです。
難しい提案をして、申し訳ありません<(_ _)>
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- 2019年04月28日 11:14
- いえいえ、いろいろと考えて下さりありがとうございます。
こちらも何か良い手立てを考えたいと思っています。
まずは皆さんのお引越し先が決まってから…になりますかねぇ…。
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- 2019年05月01日 14:19
- この作品は元々連作『If…』のために書いた物のボツ原稿の欠片です。
短い高校時代のエピソードの一つなので、『If…』じゃないところに残しておこうと思ったのです。
引越し作業の中で、ごみ箱整理が一番大変です。
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poppo
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高校生のころ、二人の初々しさが新鮮ですね。
ユジンの足元にひざまづくチュンサン…
何度も繰り返されるシーンですが、ホント絵になります。、
約束したわけでもないのに、
初雪の日に湖デートをしたシーンも思い出します。
サンヒョクが、ユジンのコートを持っていそいそと外に出て、
早朝に散歩する二人を見て、拗ねてしまった…目をそらしてしまった…
あのシーンの前夜に、こんなエピソードがあったなんて、
なんだか納得です。
それにしても…
引率の先生もいないのに、放送部の6人は、みなさん真面目だなぁ。