「独占」





僕は先輩に、休暇が欲しいと告げてソウルを離れた。

胸の中に吹く冬の空っ風は、この別荘へと僕を運んできた。


ひとりきりの、この別荘…。

あの日の彼女の姿を、つい追い求めてしまう…。


僕は… ユジンさんを今も…。



彼女が去った後、僕に残されたのは、ポラリスのネックレスと忘れられぬ記憶…。

そして… 『愛しています』と… 言ってくれた彼女の泣き顔と後ろ姿…。


すべてはあの雪の中に埋もれていった…。



彼女は、サンヒョクさんと生きる道を選んだ。

その道へと… 僕は、自ら送りだしたのだ。

後悔は… しない…


そう思っていたはずなのに…。



ひとりで作る食事。

誰かに作ってあげるのではない。

誰かと一緒に食べるのでもない。


僕は、鍋の中のものを、結局捨てた。



湖のほとりで釣り糸を垂らし、日が沈むまで空を眺める日々…。

忘れるために過ごすだけの時間。


目の前の風景は、こんなに美しいのに…

僕は、それを楽しむことはできなかった。


彼女と一緒なら… もっと輝いて見えるのかもしれない…。



あの日…。

母に言った言葉を思い出した。


『母さんは、ここの美しい風景を独り占めする気なんです』


馬鹿な話…。


ひとりで見るこの景色に、何の喜びがあるのだろうか…。

彼女がいなければ…。



彼女を…

本当は、独り占めにしたかった…。


誰にも渡したくなかった…。

離したくなかった…。



凍りかけたこの湖…。

やがて僕の心の中も凍っていくだろうか…。


彼女との記憶を、深く水底に沈めて…

この胸を揺らす波を鎮めていけるのだろうか…。



(ユジンさん…。)


僕は、また風に向かってつぶやいた。


                      -了-


あとがき

このところ、ユジンばかり書いているので、ボツ原稿の中からミニョンのつぶやきを取り出してきました。
ドラマの第11話から、ほんの短いつぶやきです。


 コメント一覧 (8)

    • 1. **seiko**
    • 2007年08月05日 10:10
    • ミニョンは 本当にそう思っていたと思います。
      忘れたくても忘れられない…。後悔はしない…。っとそう自分に言いきかせていた。。でも…。
      切なくて 切なくてどうしようもない気持ち…。
      何をしても楽しくない。何を見ても感動すら忘れてしまった心…。
      何といっても この自分がユジンをサンヒョクのところに送りこんでしまったのだから…。後悔の気持ちでいっぱいだったに違いありません…。
    • 2. 冬ソナonlyyou
    • 2007年08月05日 21:43
    • 今晩は。久し振りにミニョンの「孤独」に触れさせて頂きました。
      「僕は、鍋の中のものを、結局捨てた。」
      「忘れるために過ごすだけの時間。」
      「『母さんは、ここの美しい風景を独り占めする気なんです』
      馬鹿な話…。」
      ミニョンの深~いため息が聞こえてくるようで、一段とせつないです。
    • 3. 子 狸
    • 2007年08月05日 21:48
    • 久々のチュンサンのつぶやき……ありがとうございます。
      >ひとりで作る食事。誰かに作ってあげるのではない。誰かと一緒に食べるのでもない。……僕は、鍋の中のものを、結局捨てた。
      ここ、辛いですね。
      別荘で、二人でキッチンに立って作り、二人で楽しく食べた朝食…
      あの思い出があるからよけいに…。
    • 4. カンちゃん
    • 2007年08月05日 22:07
    • そうでしたね この頃のミニヨンはユジンを想いこがれ、ひたすらユジンを求める心と闘っていましたね、理事の仕事も外聞も捨て湖で自分を捜すミニヨンにチュンサンの話をしてくれたおじさんは神様です。
    • 5. poppo
    • 2007年08月05日 23:38
    • 独りで眺める景色。
      愛する人を失った孤独感。
      それだけでなく、
      ミニョンの心を「占める」ただ「独り」の人…。
      そんな思いを込めて「独占」という変なタイトルにしました。
    • 6. naonao
    • 2007年08月22日 03:03
    • 初めまして。前々から読ませて頂いていました。ご挨拶が遅くなりました。私は今年の5月に冬ソナを見てはまり、ネットで多くの方のその後のお話などを、読ませて頂きました。そのうち、なぜユジンはミニョンの元へと戻らなかったのか?と考えるようになりました。ユジンはチュンサンをだぶらせていた状態から、ミニョンという人間を愛するようになったはず・・。まあ、最終的にはチュンサンと同一人物であったのだし、記憶も戻っていくのですが・・。初めてのコメントなのに深刻ですみません。この話を書いたpoppoさんだったら教えてくれそうな気がして。私は、ユジンにチュンサンのことを分かった上で愛してくれたミニョンの元へ、行ってほしかったのかも。
    • 7. poppo
    • 2007年08月22日 18:38
    • naonaoさん、ようこそ。ありがとうございます。
      お名前は、どこかで拝見したことがあります。
      ユジンが戻らなかったのは何故か…。
      やはりサンヒョクの「ハンスト」がこたえたのでしょう。
      ユジンにとって、まわりの人がいなくなることの辛さは、もう充分味わっているのです。
      特にチュンサンの死は、大きな心の傷となって残っています。
      そして、また同じようにサンヒョクが死ぬようなことになったら…。
      あの病室での慟哭は、ユジンが全てを諦めた瞬間でした。
      自分の夢も、ミニョンへの思いも全て諦め、サンヒョクが望む道へと身を投げたのです。
      だからあれほど激しい泣き方をしたんじゃないかな…。
      影の国へとまた入っていくこともわかっていたと思います。
      それが自分の人生だと…。
      可哀想でした。
    • 8. うさこ
    • 2007年08月23日 18:16
    • お久しぶりです。ちょっとした訳ありで「ブルゴーニュの風」を読むことができない私です。涙を呑んで今は封印しています。早く読みたいのですが・・。
      さてさて・・・そんなことより、失意のミニョンさん。
      仕事も手につかなるなんて、ミニョン自身も思いもよらない衝撃だったことでしょうね。 「思ってもみなかった初めての体験」に戸惑いを隠せなかったようです。
      ユジンはチュンサンにしか許せなかった一番大切な「心」をミニョンに残していきました。
      心を持たずに生きていかねばならないと決意したのでしょうね。?
      ポラリスネックレスを返された時、ミニョンはそんな抜け殻のようなユジンを見てサンヒョクのもとに送り込んだことを悔やんだと思います。「戻れるものなら戻りたい」切実な気持ちです。
      ユジンのためにこれで良かったのだろうか・・・と。
      もっとわがままに自分本位に生きられれば、良かったのに・・・
      でも、それをしない二人。
      ユジンとチュンサン(ミニョン)、とても似ています。

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