「祝電披露」
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『お聞きしたところでは…
花嫁様は… あの…お嬢様の恋のお相手の忘れ形見の方だとか…。
それがどういうことなのか、私にはよくわかりません。
しかし、人の運命… 縁というものの不思議さをつくづくと感じております。
お嬢様…
そうお思いになられませんか。
人の縁というものは、本当に不思議なもの…。
その縁を、これからも大切になさられて…
お幸せにお暮らしくださいますように…。
私は今、大変満ち足りた気持ちでおります。
おめでたいお知らせを聞き…
そして、自らの夢をかなえていただき…
心にかかるものは、もうなくなりました。
亡くなられた旦那様の最期のお言葉…。
「ミヒを、くれぐれも頼む…」
そのお言葉に対するお約束も、いつか誇らしく胸を張ってご報告できると思います。
お嬢様…
お忘れなさらずに…。
旦那様も… 奥様も…
本当に、お嬢様のことをご案じになられてたのですよ。
そのことだけは、お心のうちにいつまでもお留めくださいますように。
長々と、書き連ねてまいりました。
老い先短い年寄りの話と、ご勘弁の程、お願いいたします。
晴れの日に…
遠く、春川の町より、心からお祝いを述べさせていただきましょう。
お嬢様…
チュンサン坊ちゃん…
そして新婦様…
ご家族のみなさま…
結婚式にご参列のみなさまのご多幸を、お祈り申し上げます。
チョ・インスン 』
*
読み終えたヨングクは、その手紙を丁寧に封筒に戻すと、それをミヒの元へ持って行った。
ミヒは、その手紙を受け取ると、それを胸に抱き、頭を下げた。
「…………!!」
いくつもの思い出が、ミヒの胸の中を流れていった。
やがて顔をあげたミヒが、キム次長に言った。
「キムさん… ありがとうございました。
わざわざ届けていただいて… 本当にありがとうございました。」
「…いえ… そんな… お礼を言われるほどの…
ただ、お預かりしてきただけですから…。
でも… よかったですね…。」
キムは、いつものようにぶっきらぼうに答えた。
「ええ… うれしかったわ…。
チュンサン…。
ソウルに戻ったら、一度一緒に春川に行きましょうね。
チョさんに会って、あなたからもお礼を言わないと…。」
「はい。
僕もそのつもりです。
本当に、お世話になったんですから…。
先輩…。
ありがとう…。」
チュンサンも礼を言った。
「…ああ…。
…そうだな…
…一度会いにいってやるといい…。
…きっと… 喜んでくれるだろうよ…。」
そう言った後、キムはそっとまぶたをこすった。
昨夜… ソウルからきた連絡…。
チョ・インスンが亡くなったという知らせを、キムはとうとう口にすることができなかった。
-了-
あとがき
これは、連作『White Wedding』のボツ原稿のひとつです。
ずいぶん時間が経ってしまいました。
ずいぶん時間が経ってしまいました。
せっかくの結婚式の雰囲気を変えたくなくて、ボツにした作品。
少し書き直してみましたが、いかがでしょうか。
少し書き直してみましたが、いかがでしょうか。
チョ・インスン…。
この方については『夏のメモランダム 第18話』で書いておきました。
脇役の、そのまた脇役ですが、こんな大切な役割だったかもしれません。
脇役の、そのまた脇役ですが、こんな大切な役割だったかもしれません。
コメント一覧 (9)
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- 2007年06月10日 14:49
- 子狸さん、いつもながら、さっそくのコメントありがとうございます。
一番…いえ…すでに30名ほどの方々に、覗いていただいていました。
コメントはされなくても、いつも読みにきてくださる方々がおられることは、僕にとって本当にありがたいことです。
見守っていただいている…ミヒやチュンサンと同じように感じています。
披露宴に訃報が届くのは、やはりタブーですよね。
キム次長のぶっきらぼうな顔の裏に、切ない彼の心の声を感じていただければありがたいです。
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- 2007年06月10日 14:56
- あの爺やさん・・・はい、覚えていますよ。
そうですか・・・亡くなられたのですか。ほんのワンシーンの登場ですが、そのおかげで高校生のチュンサンを家で迎えてくれる人がいるのだと、ちょっと安心したものでした。
そうですね。あの頃すでにお年を召しておられたようにお見受けしましたもの。きっと大往生だったんですね。
チュンサンを見守って慈しんでくださりありがとうございました。
ご冥福をお祈り申し上げます。
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- 2007年06月10日 15:36
- Poppoさん 私もよく覚えています。そうだったんですか…。
この爺やのおかげで あの春川の家がきれいに残されていたのですね。 本当に感謝です。でも やはり結婚式では お亡くなりになったこと 言えませんよね。。キム次長 ここでこの手紙を出していいのかどうか…。迷われたに違いありませんよね。。そう思うと 本当切ないですね。
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- 2007年06月10日 16:20
- 内緒さん、ご指摘ありがとうございます。
しかし「ソウル」でいいかと。
大きな病院ならソウルでしょうし、孫娘さんはソウル支社に勤めていますから。
一応考えた上で、ソウルを選んでいます。
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- 2007年06月10日 19:14
- この宴を一番見届けてほしかった人ですね。親が子供を想うように見守ってきたんでしょう。ミヒの辛さチュンサンのやるせなかった日々を幸せに導く手紙でした。人との出会いは生きていくうえでの道標ですね。Poppoさんこれからもたくさんの人に出会いましょうね。
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- 2007年06月10日 20:13
- カンちゃんさん、お久しぶりです。
素敵なコメントをありがとうございました。
はい。
人との出会いの中で、心の糧を交わし合えたらいいな、と思います。
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- 2007年06月11日 16:37
- 久しぶりのスピーチですね…。きっとまだまだ話したかった人がいるのでしょうね…。時々読み返して泣いてしまいます…。春川の家は誰かが管理しているのかな?と思っていました。爺やさんが大切に管理していてくれたのですね。感謝です!
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- 2007年06月11日 20:24
- 僕も時々『White Wedding』を読み返しています。
懐かしいアルバムを見るような…そんな気分です。
春川出身のマルシアンの受付嬢のお祖父様…ちゃんと覚えていますよ。
小さい時からミヒを見守り、チュンサンとミヒのの家を守ってくださった方からのメッセージ…ですよね。あの家のピアノ、写真、名札、メモ、チュンサン宛のユジンのメモ用紙、あのピンクのミトン…彼のおかげで、きれいに保管されていた…感謝いたします。
『White Weddinng』のボツ原稿…そうだったんですね。やはり披露宴はしんみりしてちゃいけません…なんて、私が書いちゃったから、ボツになったのでしょうか?
このストーリーをupしてくださいまして、ありがとうございます。