「祝電披露」
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宴もたけなわの頃… キム次長が、司会のヨングクの元に寄って何かを手渡しながら話している。
「…これを?
いや… 宛名はチュンサンとカン・ミヒさんになっていますよ?
…え? かまわない? …そう言われたんですか?」
ヨングクは少し迷っているようだ。
次長から渡されたのは、一通の手紙…。
宛名には、
『カン・ジュンサン 様』
『カン・ミヒ 様』
とふたりの名前が書かれている。
封筒の裏を見ると、そこには
『チョ・インスン』
ヨングクは、次長に尋ねた。
「この『チョ・インスン』さんとはどなたです?
…え? マルシアンの受付の… は? お祖父様?
その…社員の方のじいさまが、何を…
そんな、とにかく読めと言われても…
…え? 祝電じゃ書ききれないから?
困ったな… 仮にも人の手紙ですから…
ちょっと…
いいんですか? 後で叱られたら、責任は取ってくださいよ?
…じゃあ… 」
ようやく説得に応じたヨングクが、手紙の封を切った。
「…みなさま… ご歓談の途中ですが…
ここで、祝電のご披露… いや、お祝いの手紙をひとつご披露させていただきます。
…本当にお祝い文なんでしょうね?次長。
では… 」
会場が静まったところで、ヨングクはその手紙を読み始めた。
*
『親愛なるカン・ミヒ様 並びに カン・ジュンサン様
チョ・インスンでございます。
本日は、まことにおめでとうございます。
このような日を迎えることを、私はずっと待ち望んでおりました。
心よりお祝いを申し上げます。
ああ… 私は、わがことのようにうれしくてなりません…。
あのチュンサン坊ちゃんが、立派に育たれて…
そして、すばらしい花嫁を迎えると聞き…
往事を思い返しながら、涙を抑えることができません。
ミヒお嬢様…
本当におめでとうございます。
ご苦労が実られましたね。
きっと、これからはお幸せな日々が続くことでしょう…。
私がお嬢様の家に奉公にあがったのは、ちょうど二十歳になった年でした。
あの頃のお嬢様は、小さく… とても愛らしくて…
私も、旦那様をはじめご家族のみなさまにかわいがられて、幸せな毎日でした。
日ごとにお美しくお育ちになるお嬢様を眺めながら、その幸せをお祈りしておりました。
しかし…
どういう運命のいたずらでしょう…
そのお嬢様が、旦那様から勘当の身となられるとは…。
私は、信じられぬ思いでした。
お嬢様が、激しい恋をなさっていたことは、存じておりました。
それをお認めにならぬ旦那様のお気持ちも、今となればわかるような気がいたしております。
しかし、それにしてもあまりにおかわいそうなお嬢様の有様…。
私は、自分のできる限り、お嬢様をお守りしようと思いました。
あの春川のお住まいで、お一人での暮らしを始めたお嬢様を…
そしてまた… チュンサン坊ちゃんをお産みになられたお嬢様を…
私は、僭越ながらも、おふたりをお守りしながら生きていくことを誓ったのでした。
チュンサン坊ちゃんは、大層お健やかに育っておりました。
お小さい頃は、お母様によく似てピアノも上手に弾かれていましたね。
お嬢様がコンサートで地方にお出かけの際は、時折、お寂しそうなご様子もありましたが…。
私を相手にキャッチボールなどもなさっておりました。
懐かしい思い出でございます。
ですが、私の力ではやはり父親の代わりは務まりませんでした。
年々、お心を閉ざしていかれるチュンサン坊ちゃんのご様子に、私は悲しい思いがいたしました。
何かにつけ、お嬢様と言い争う坊ちゃんのお姿に、いたたまれぬ思いでおりました。
それでも… いつか… そう祈っておりました。
私の祈りは神様に通じたのですね。
お嬢さま…
あの頃のお寂しそうなお顔…
それは、もうございませんよね…?
今日の日は、本当にうれしく思います。
年寄りの思い出話ばかりで申し訳ありません。
アメリカに渡られる時の、あのお嘆きの表情が、今も私の胸を締め付けます。
大切なチュンサン坊ちゃんの不慮の事故…。
その後のお暮らしを耳にするたび、私は喜んでよいのか悲しんでよいのかわからずにいました。
ただ…
私は、いつかチュンサン坊ちゃんが、この春川に帰ってくる日を信じておりました。
アメリカで、イ・ミニョン様とお名前が変わられたと聞いた時も…
必ず、坊ちゃんは帰ってくると…。
私は、それまではあのお家をお守りしていこうと思いました。
旦那様も…奥様も亡くなられた今…
お嬢様と坊ちゃんが戻られるところは、あの家だけだと思っていたのです。』
*
手紙を読むヨングクの声には、いつしか涙が混じっていた。
ミヒも、目を閉じ、時折ハンカチで目頭をぬぐっていた。
チュンサンは…
しずかに頭を垂れていた。
会場の誰もが、静かにその手紙を聴いていた。
*
『お嬢様たちがアメリカに去った後…
私は、しばらくは何をしたらよいのかわからずにいました。
ポッカリと… 心に穴が開いたような気持ち…。
私に遺されたのは、あのお家を守ることだけでした。
誰も住まないお家ではありましたが…
そこにはお嬢様と、チュンサン坊ちゃんのお暮らしの香りは残っておりました。
お嬢様のピアノも手入れをしておりました。
お美しいお写真も掛けておきました。
チュンサン坊ちゃんのお品も整理して残しておきました。
学生服も… 名札も… 学生手帳も…
あの事故の際のお洋服も… 汚れを取って残しておきました。
すべてをあの当時のままに…
時の流れはせき止められるものではありませんが…
私にとっては、あのお家が「心の家」だったのです。
10年ぶりにお嬢様が帰られた時…
私は、大きな期待とかすかな胸騒ぎを感じておりました。
それがなぜなのか… 私にはわかっておりました。
私も… もうよい歳になりました。
今度のご帰国が、最後の機会…
そんな思いでいたのでございます。』
ユジンが、そっとチュンサンに囁いた。
「この方が… あのミトンを残しておいてくれたのね…。」
チュンサンが顔をあげた。
「…そうだね…。
僕たちの知らないところで…
みんながこうして見守ってくれてたんだ…。
…感謝しなければ… いけないよね…。」
チュンサンの言葉に、ユジンもうなずいた。
「私も… この方と同じように…
ずっと「心の家」を守ってきたのよ。
チュンサン…
本当にずっと…。」
ユジンはチュンサンの手を握った。
-後編につづく-
>まいったなぁ・・そういうブログではないのですが
訪れた者が読ませてもらって、いろいろと感じ想うのは自由でしょ っ。それとも来てはいけないブログなのでしょうかっ。
>喜んでいいのか、悲しんでいいのか・・
それはそれとして。Poppoさん、いろんな人がいていいんじゃな い。皆が画一的じゃドラマにならないでしょ。