「時の扉」






静かな高台の墓地。

そこにあなたは眠っていた。

ヒョンス…

あなた… どうしてこんな…。



優しく吹いてきた風。

あなたを起こしてしまったかしら…。

私…

あなたが亡くなったことを、ずっと知らずにいたのよ…。

チヌから聞かされるまで…。


ええ… チヌに会ったの。

10数年ぶりだったわ。

もう… 会うこともないと思っていたのに…。



あなたにも…

こんなふうに会うとは思っていなかった…。


まさか、あなたがこんなにも早く亡くなるなんて…。


やっぱり、あなたは酷い人だわ…。



あなたに最後に会った日…。


あなたは言ったわね。


『…嘘は、いつか現れるものだ。』と。


『俺は、自分の気持ちに嘘はつけない』と。


あなたがあの人を選んだこと…。

それを、あなたはそう言って正当化したのよ。

私の気持ちなど… あなたは…。



今日、ここに来たのは、あなたの死を確かめたかったから。

あなたがあの人と幸せになれなかったのを、確かめたかったから。

あなたが可哀想だと思ったから。



…いいえ…    それは嘘…。



今日が… あなたの誕生日だったから…。



まだ誕生日を覚えているのか…

そう言って、あなたはまた私を叱るんでしょうね…。


でも、私はあなたのこと… 何もかも… 忘れられないの…。


あなたを… 許せない…。



とうとう… 最後まで、あなたは私を苦しめたままで…。



私… あなたをこれからも忘れないわ。

ずっと忘れない…。


あなたを…


憎み続けるのよ…。



あなたが好きだったこの白い花…。


お別れね… ヒョンス…。



私はそう告げて、長い下り坂を下りた。


彼は… 一言も… 私の心に話しかけてはくれなかった…。



          *



懐かしい春川の町。

10年前と変わらぬたたずまい。

この町で、私は彼との時間を過ごしたのだ。


今も残してある家…。

二度と戻ることもないと思っていた我が家…。

ここには、チュンサンとの時間もしまってある。


蔦がからまる外塀。

かすかに残る思い出の香り。


時は、知らぬ間に流れていたのだ。



ソウルに戻る前に、もう一度私はこの家を見ようと思った。

ピアニストへの夢を追って、夢中で弾いた日々もそこにあったから…。


玄関の扉を開けた。

そして…  そこにいたのは…


「…母さん…?」


……!


…ミ… ミニョン…?

あなたが… なぜ…ここに…!


慌てる私は、その場から逃げようとした。

ミニョンの不審の目。

私は… 逃げなければ…!


何かが倒れた音。

振り返った私の目に映ったのは、あの日の写真…。


若き日の私の写真…。


彼が…  ヒョンスが撮ってくれた写真…。


「…これは?  …これが、なぜここに?」


ミニョンの矢継ぎ早の問いに、私はもはやどうすることもできなかった。


『…嘘は、いつか現れるものだ。』


ヒョンスの声が、その時… 私の耳元に響いていた。



                          -了-



あとがき

本編第12話のシーンから。
このような形で10年前の真実が明らかになるとは、ミヒも思っていなかったでしょう。

これも、運命のいたずらなのかもしれません。