「母の日に…」





ママ…

元気ですか?

私は、元気です。


ようやくこのパリの街の空気にも慣れてきました。

今、パリは「白夜」のシーズンです。

夜になっても太陽が沈まない不思議な時間…。

その明るい闇の中で、こうして手紙を書いています。



ママ…

寂しい思いをさせて、ごめんね。

ヒジンもソウルに出てしまったのに…ごめんなさい。

私って、本当に親不孝な娘だと思います。


ママの願いも… 夢も… 私は何ひとつ…。

そして、こんな遠く離れた街に来てしまって…

許してね… ママ…。



でも、今の私には、こうするしかなかったの。

ママには悪いと思いながらも、私にはこうするしかできなかったの。



ママ…。

いつか、話してくれたわよね…。


『心に宿した人のことは、永遠に忘れられない』って…。


私ね…



…ううん…


ママも… パパが心に生きているから…寂しくなんかないわよね…?

いつまでも… パパはそばにいるのよね?



私も… 寂しくなんかないわ…。

こんなに離れてしまっても… 寂しくなんかないわよ…。


ママ…

心配なんかしないでね。


私の心の中には、楽しかったたくさんの思い出があるから… 大丈夫…。


このパリで、ひとりでも大丈夫よ。



私ね…

今になって、思うの。

ママも… 一緒だったんだ…って。


パパが亡くなって… ママ… 本当は、とっても寂しかったんだろうな…って。

そのことを思わなかったわけじゃなかったけど…

私は未熟すぎて、ママの心をわかってあげられなかった。


私やヒジンのために、一生懸命働いてくれてたママ…。

本当にありがたいことだと思ってる。

なのに私は、自分のことしか考えない娘だったわ…。

ママのこと…

今頃になって、やっとわかるなんて…。

ごめんね…。

ママ… ごめんね。

パパにも謝っておいてね。

しばらくお墓にもいけないから…って。

パパ… 怒ってるかしら…。

それとも…

ママとふたりっきりになれて、喜んでるかしら…。


私はね…。


 ………。


…私は、ひとりっきりではないわ。


ちゃんと、心の中に…

この心の中に…


元気で頑張るから、ママもあまり無理をしないでいてね。



大学の授業がない日には、アルバイトもしてるの。

昨日お給料が出たので、夏物のブラウスを買いました。

そちらに送ったから、来週には届くと思います。

気に入ってもらえるといいな…。


ママ…。

身体には、気をつけてね。

ちゃんとしっかりした物を食べてね。

ラーメンばかりじゃだめなんだから…。

休みの日には、ちゃんと休んでね。

夜も早めに寝るようにしてね。

重い洗濯物は、二回に分けて運ぶのよ。

うちの玄関の階段は、人の家より急なんだから、くれぐれも用心してよ。


ママ… 私は大丈夫だから。


ママ…。

また、手紙を書きます。

待っていてね。


ママ…。

お元気で…。


 5月6日  パリにて


   愛するママへ…

               ユジン-



                       -了-



あとがき

なんだか上手く書けませんでした。
ユジンの心の中を隠しながら書いているせいかもしれません。
「明るい闇」の中で書いている気分。

韓国にも『母の日』みたいなものはあるそうです。
『両親の日』というそうで、5月8日がその日。
やはりカーネーションなどを贈って感謝するみたいです。

書きながら…

僕は親不孝だな…と。


もう冬ソナサイドストーリーは書かないつもりでしたが、母の日ということで…。
5月のストーリーですが、『冬の残り火』にアップすることにしました。