「卒業を前に…」
2
明日は卒業式…。
思い出多い高校生活が終わろうとしている。
ユジンは大学生活の準備をしながらも、ひとりの部屋で高校時代の思い出をたどっていた。
卒業後は、ソウルの大学に進学する自分…。
故郷を離れ、家族とも別れ… 新しい生活が始まるのだ。
当分は、チンスクと一緒にアパートを借りて暮らすことになっていた。
それだけが、なんだか心強かった。
大学生になる自分…。
着慣れた学生服も、もう着ることはない。
少し… 大人になるのだ。
そして…
また少し… 遠ざかる、彼との時間…。
彼と出会ったあのバスにも、もう乗らなくなる…。
一緒に話した焼却場にも、もう行けないのだ…。
放送室も… あの塀も…
湖にも…
全て… 別れの時…。
ユジンはまぶたをこすった。
泣いてはいけないと… 思った。
チュンサンに笑われてしまう… そう思った。
「…お姉ちゃん…。」
静かにヒジンが部屋に入ってきた。
「…? なあに?」
ユジンは笑顔を作りながら聞いた。
「…あのね…」
ヒジンは後ろ手に持っていたものを、ユジンに差し出した。
それは、画用紙を丸めたものだった。
「…? これ… なんなの?」
「…プレゼント…。
お姉ちゃんに…お祝いのプレゼントよ。
あのね…
あたしが描いたの。
お姉ちゃんみたいには描けないけど…
あげたかったの。」
ヒジンは照れくさそうに言った。
きっと先日の母との会話を、この子なりに考えたのだろう。
ユジンはその画用紙を拡げた。
「……!」
そこには、稚拙なタッチではあるが、にぎやかな絵が描かれていた。
どこか… 海のそばらしい…。
青い海がクレヨンで描かれている。
真ん中には、大きな屋根の白い家が描かれていた。
その屋根の下にはたくさんの人々が描かれている。
みんな笑顔で手をつないでいる…。
「…これ… ヒジンが描いたの?
とっても上手よ…。
これ海よね?」
「うん! 海。
それでね… これがお家…。
お姉ちゃんが作ったお家よ。
お勉強して作ったお家なの。」
「あら? もう私が作ったのね。
すてきなお家ね…。」
ユジンはくすぐったそうに笑った。
「これが、お姉ちゃん。
これがママ。
…あたし?
…これ!
可愛いでしょ?
こんな赤いお洋服が欲しかったの。
…でね…
これが、サンヒョクお兄ちゃんで…
こっちがチンスクお姉ちゃんよ。
眼鏡でわかるでしょ?
それでね… これはね… 」
ヒジンは次々と描かれた人物を紹介していった。
近所のおばさんや、果物屋のおじさんもいた。
自分の小学校の先生や友達の名前もあった。
「たくさんいるのね…。
そんなにいっぱいの人が一緒に住むの?」
ユジンは笑いながら言った。
「…だって… お姉ちゃん…寂しいかと思って…。
遠くに行ったら… 寂しいでしょ…?」
ヒジンはそう言って、口をとがらせた。
「……!
…ヒジン…。」
ユジンは胸が詰まって何も言えなくなった。
まだ幼い妹の心遣いに、いじらしさを覚えて涙が溢れそうになった。
ただ、妹の身体を抱きしめ、その頭を撫でるだけだった。
やがて、ユジンは言った。
「ありがとうね… ヒジン…。
とってもうれしいお祝いだわ…。
ちゃんと持って行くからね。
本当にありがとう…。」
ヒジンもうれしそうに笑った。
そして、その絵をもう一度指さした。
「お姉ちゃん…。
これは、チュンサンお兄ちゃんだからね…。」
「………!」
気がつくと、ユジンの左横に明るく笑った男の子が描かれている。
その目は、どこかあの日のチュンサンに似ていた。
そんな夢のような日々は… 来るはずもない。
だけど…
もう一度…
そんな夢を描いてみたい…。
ユジンの頬を、涙がつたった。
「お姉ちゃん…。
もう寂しくなんかないよね?」
「………。」
ユジンは、ヒジンをまた力一杯抱きしめた。
こらえきれない涙が、頬を濡らしながら、絵の上に滲んでいった。
-了-
あとがき
これはボツ原稿ではなく、「新作」です。
前半は、宮崎県のニュースを時事ネタに書いてみました。
知事選の「サプライズ」と「鳥インフルエンザ」の件。
ちょっとキーワードも使ってます。
冬ソナ風のセリフもちょこちょこ。
前半は、宮崎県のニュースを時事ネタに書いてみました。
知事選の「サプライズ」と「鳥インフルエンザ」の件。
ちょっとキーワードも使ってます。
冬ソナ風のセリフもちょこちょこ。
後半は、また発覚したマンションの安全性の問題を考えながら。
「冬の挿話 1」を書いた頃を思い出しながら書きました。
「冬の挿話 1」を書いた頃を思い出しながら書きました。
海のそばの家…。
ヒジンは、ヨングクよりも霊感があるのかもしれませんね。
ヒジンは、ヨングクよりも霊感があるのかもしれませんね。