「私信」
チュンサン… 元気でいるかしら…。
ニューヨークも寒さが厳しいんですってね…。
パリも、冷たい風が毎日吹いているわ。
パリに来て… 初めての冬…。
ひとりきりの冬…。
でも、寒くなんかないわよ。
私の心の中には、あなたという暖炉があるから…。
暖炉…。
思い出すあの吹雪の夜…。
あなたの眼鏡を勝手にはずしたあの夜。
あなたの言葉に、心を乱された夜…。
あの吹雪の中にいたのは、確かに私とチュンサン… あなただった。
ふたりで、吹雪が止むのを待っていたのね。
互いに激しい言葉をぶつけながら…
互いの心を温め合っていたのかもしれない…。
吹雪は… 止まなかった。
冬の嵐は、こうして… 私たちふたりを離ればなれにしてしまった…。
どうしてなのか… 今もわからない…。
運命のいたずら…。
そう呼ぶには、あまりに悲しすぎて…。
でもね… あなたの心は、なぜか温かく伝わってくるの。
離れていても、わかるの。
あなたの優しさは、いつもここにあるの。
私ね… パリに来て、ようやくあなたのことがわかってきたのよ。
あの頃…
高校生だったあの頃のあなたのことも…。
あなた… きっとチヌおじさまを自分の父親だと知っていたのね。
だから… 春川に転校してきたのでしょう?
だから… サンヒョクにあんな態度をとっていたのよね?
可哀想なチュンサン…。
あの頃、もっとあなたの寂しさをわかってあげられたらよかったのに…。
影の国にいるあなたを…
私は、何にもわかってあげられなかった…。
あなたが突然私の家から去ったのも、今はその理由もわかってる。
あの… アルバムのせいだったのでしょう。
あなた… 驚いていたもの…。
あなた… 私のパパを…
そして… あの事故…。
あなたは、私との約束を忘れていなかった。
私は、それがうれしかった。
だけど… 喜べなかった。
あなたが、そのために…。
あなたに言えなかった言葉…。
私は何度、ひとり胸の中でつぶやいただろう…。
あなたを失ってから、私は人を愛することを忘れていた。
もう… 誰も愛せないと思っていた。
サンヒョクと婚約はしたけれど… 心の奥には、別の私がいるのを感じていた。
愛することを、思い出させてくれたのも… あなた。
ミニョンさん… という名前の…あなた。
私は、戸惑っていたわ。
チュンサンしか愛せないと思っていたから…。
チュンサンだけが、私の心を包んでくれる人だと思っていたから…。
なのに、それを壊そうとするあなたに、愛情と憎悪を感じていたの。
あなたを愛してしまう…。
それが怖い…。
だから憎い…。
あなたがチュンサンだったと知って、私は救われた。
あなたを愛したことが、間違いではなかったと… そう思ったの。
でも…
あの時の…
あなたと私が…
本当なの? 本当のことなの?
私の心は、狂いそうになりながら叫んでいた。
今は… それも冬とともに消えた記憶…。
あなたは… 昔と変わらず…
『秘密』にしたまま、姿を消した…。
私に思い出だけを残して…
チュンサン…
それがあなたの優しさだと… 私は知っている…。
昨日ね… パリにも初雪が降ったのよ。
白い雪は… やはり美しい…。
その雪は、すぐにとけてしまったけれど… 私の心に温かくしみ込んできたの。
あなたが… 好き…。
あなたを… 愛してる…。
今も… これからも…。
あなたにこうして書く手紙…。
出すことのない手紙…。
ごめんなさい…。
私は、まだあなたのそばにいられない…。
いつか…
私が、強く生きていけるようになった時…
その時は、あなたにもう一度逢いたい…。
あなたの手を握って…
あなたの足跡をたどって…
…同じ道を歩きたい…。
それが… 私の夢…
あなたへの… 想い…
ポラリスにかけた… 誓い…
チュンサン…
私… ちゃんと食べているわよ…。
ちゃんと… 眠っているわよ…。
ちゃんと… あなたとの約束を守って…
こうして… あなたの元へ走りたい気持ちを抑えてる…。
チュンサン…
今… あなたは…
………。
-了-
あとがき
これもボツ原稿だったもの。
僕の、最後の作品にするつもりで書いたものです。
僕の、最後の作品にするつもりで書いたものです。
僕の思いを、ユジンに託した手紙です。
少し、書き直してみました。