「EVE EVE」
明日はクリスマス・イヴ。
ユジンとチンスクは、リビングの飾り付けを行っていた。
小さなクリスマス・ツリーに、窓ガラスへのペイント。
あれこれ相談しながら、にぎやかになっていく部屋の雰囲気を楽しんでいた。
「それにしても、ずいぶん買い込んだわね…
チンスク…。 大丈夫なの?」
アルバイトで手にしたお金も、これではあっという間に使い果たしてしまっただろう。
「いいのよ。クリスマスなんだから。
素敵に飾って、今年こそ願いをかなえてもらわなくっちゃ…。」
高校を卒業した後、デザイン専門学校に進学したチンスクだった。
元々、雑貨を集めるのが好きだった彼女は、自分でも可愛い物を作りたいという夢があったのである。
共同生活を始めても、こまごまとした雑貨を、アルバイトの給料が入る度に買い集めていた。
「…このツリーも素敵ね…。高かったでしょう?
…『Santa Claus.U.S.A.Corporation』… 何? わざわざアメリカから取り寄せたの?」
ユジンが呆れた顔でたずねると、
「えへへ… ちょっと無理しちゃった!
でも、また来年も使えるからいいでしょう?」
チンスクは、にこにこと笑っている。
ユジンも、笑うしかなかった。
「ねえ… ユジン…。
…覚えてる?」
チンスクが、ツリーに飾りを付けながら言った。
「…ん? 何を?」
ユジンも、小さな雪玉を付けながら聞いた。
「…高校の時… みんなで山小屋に行った時のこと…。
…あの時も、こんな風に一緒に飾り付けをしたわね…。」
ユジンは、ふっと遠い目をしながら言った。
「…もちろん… 覚えてるわ…。
もう… 2年になるわね…。」
「あの時は、放送部のみんながいたわね…。
…あ、思い出した…。
チェリンったら… あたしが飾るとすぐにケチばかりつけて…。
今でも、頭にきちゃう…!」
「…そうだった?
…きっと、あの子… 自分のイメージを大事にしたかったのよ。
なにせ、今では服飾デザイナーを目指して頑張ってるそうだから…。」
ユジンの中にも、あの時の景色が浮かんできていた。
「みんなで、物語を作ったりもしたわよね?
私がせっかくロマンチックなものを考えてたのに…
ヨングクったら… 変な話にして…。
あいつにも、頭にくるわ。」
ユジンは、おかしそうに笑っている。
(…頭にくるほど… 嫌ってもいないくせに…)
ユジンの微笑みには気づかず、チンスクはまた続けた。
「…チョルスとヨンヒのお話だったわよね…。
それもミンスが出てきて…三角関係なんかになっちゃって…。
ユジンもがっかりしたでしょう?」
「…え…?
………。
…ごめんね… 私… 覚えていないの…。
あのお話… 最後はどうなったの…?」
ユジンは思い出した。
あの時、あまりにその物語が切なくて、そっと席を立ったことを…。
チュンサンの言葉を、すべて信じられなくなって…。
「…あの話の終わり?
…どうだったっけ…。
…あ。 思い出したわ…。
ミンスはね、ヨンヒの前から姿を消すのよ…。
その前に… 最後にミンスがヨンヒに会いに行くの。
ヨングクにしては、割とマシな流れよね。
…で、最後がチュンサンの番で…
ミンスがヨンヒに言うのよ…。
……ユジン…?
…あ…
…ユジン… ………。」
黙ってうつむいているユジンの目から、ひとしずくこぼれた涙に、チンスクは気がついた。
「…ユジン…。
…大丈夫…?」
ユジンは、手でまぶたをぬぐうと、クスっと鼻をすすって笑った。
「…大丈夫よ。
…それで… チュンサンは、なんて?」
チンスクは、そんなユジンの顔を切なそうに見ながら言った。
「…チュンサンはね…
『ミンスは… ヨンヒに言いました…。 …ごめん… 』
………。」
「………。」
ユジンは、また黙ってうつむいた。
ユジンは、また黙ってうつむいた。
その肩が、震えていた。
彼の… チュンサンの言葉に…嘘はなかったのだと思った。
チンスクは、そっと窓の方に去った。
ユジンの悲しみが、手に取るようにわかっていた。
窓の外には、凍った星空が見えた。
「ユジン…。
…チュンサンは… 星になったのよ…。
…きれいな星に…。
…見て。
…もしかしたら、あの星かも…。」
ユジンも窓辺に向かい、チンスクの指さした方を見た。
「…あんなに… 明るい星じゃないわよ…。
…あいつ… 明るい人ではなかったわ…。」
ユジンは、小さく笑った。
「…! …じゃあ… あ、あれかも…。
…ちょっと暗くって… ひとつだけ、ぽつんと…。」
(……? ……。 ……!)
チンスクが指さした星は… 北極星…。
遠く、静かにまたたいている…。
「………。」
ユジンは、その星のまたたきを、潤んだ目で見つめている。
「…ユジン…。
…私には… 話していいんだよ… チュンサンのこと…。
…サンヒョクには、言えないでしょう…?」
「……。
…チンスク…。
…ありがとう…。」
ユジンは、友の顔を見つめた。
その友の目も、小さく潤んでいる。
その目を、こすりながらチンスクは言った。
「…さあ、飾り付けが終わったら、今度はケーキ作りよ!
昼間、トマトもたくさん買ってきたんだから!
腕によりをかけて作るわよ!
ユジンも手伝ってよね!」
ユジンも笑顔に戻って、言った。
「…ん? …誰のために?
…チンスク…
私になら、言ってもいいのよ!」
「まあ、ユジンったら!!
からかわないでよ~!」
ふたりは、お互いの顔を見合って笑い転げた。
ツリーの先の星が、優しく光っていた。
-了-
あとがき
これもボツにしてあったストーリー。
ですが、今回「とまとさん」と「うさこさん」のために、引っ張りだしてきました。
もちろん少し書き直してあります。
お二人への、ちょっと早めのクリスマスプレゼントです。
タイトルも二人のイヴ=女神のために。
ですが、今回「とまとさん」と「うさこさん」のために、引っ張りだしてきました。
もちろん少し書き直してあります。
お二人への、ちょっと早めのクリスマスプレゼントです。
タイトルも二人のイヴ=女神のために。
ですから、キーワードは「とまと」と「うさこ」。
韓国では、ケーキの上にトマトを載せるのだと、何かで読んだことがあります。
日本ではイチゴが定番ですが、韓国はトマトもフルーツなんだとか。
トマト・ジュースも甘いらしいですよ。
日本ではイチゴが定番ですが、韓国はトマトもフルーツなんだとか。
トマト・ジュースも甘いらしいですよ。
「とまと」はわかったけど、「うさこ」は?という方…
よく見てくださいね。
よく見てくださいね。
U S A C O …ほら! あったでしょ?