「愛するがゆえに…」






サンヒョクに急かされて、私は空港に向かった。


しかし… 彼の乗った便は、すでに発った後だった…。


彼は…  チュンサンは… ニューヨークへと、ひとり去ってしまった。

真実を…告げず…  自らの命のことさえ…教えてくれずに…。

私には… 彼の心がわからなかった。



「…ユジン…。

 とにかく、この病院に行けよ…。

 …先生に会って、チュンサンの症状について話を聞いてくるんだ。」


サンヒョクが、その病院の名前を書いたメモを手渡してくれた。

私は、ただ黙ってうなずいた。



          *



次の日の朝。

私は、眠れぬ夜から這い出るようにして、そのメモにあったソンジ病院を訪れた。

そして、彼の担当医の先生に面会を求めた。


「…先生…。

 彼の… カン・ジュンサンの後遺症は… そんなにひどいものなのでしょうか…。


 教えてください…。 先生…。」



ドクターは、私が受付に出した面会カードを見ながら言った。


「…申し訳ありませんが… 患者さんのことを、あなたに話すことはできません。

 それは、プライバシーにかかわることですから。

 …失礼ですが… あなたと、この患者さんとのご関係は…?」

ドクターは、じっと私を見つめている。

私は、その目を見た。

そして… 言った。




「…彼は…   私の…夫です…。」


私は、迷うことなくそう告げた。

もはや誰に恥じることもない。

彼は… 私が、ただひとり心から愛した運命の人なのだ。

後は、何も言えなかった…。


あふれる涙を抑えきれぬまま、私は声をはなって泣いた。


ドクターは、いつまでも私を泣かせてくれた。


   …  …  …  …


やがて、ドクターは話してくれた。

彼の脳に見つかった腫瘍のことも。

手術の必要性と緊急性も。

アメリカでの手術の方が、より成功率が高いことも。


そして、彼がそのことを冷静に受け止めていたことも…。



私は… 彼の心を知って…  また、泣いた。




          *



今、私はパリに向かう飛行機の中にいる。

私は… 彼を追わなかった。

サンヒョクがくれたニューヨーク行きのチケットも… 使わなかった。


彼の心を… 愛を知ったから…。


彼を信じているから…。


彼の決断に、私も従うことを誓ったから…。

彼と… 約束したのだから…。
 

彼は… 永遠の愛を誓った、私の夫…。


何があろうとも、私たちの絆は消えない…。


運命は… 信じるもの…。


私は、彼との運命を… 愛を信じる…。




たとえ… 残酷な優しさであっても…


たとえ… 冷酷ないたわりであっても…



私は…  チュンサンを愛している…。


…愛しているの…



…チュンサン…

…愛しているのよ…。




私は、アイマスクを取りだした。

そして、それを着けた闇の中で… 彼を想って泣き続けた。


                            -了-



あとがき

これは、ユジンがニューヨークに行かなかった理由について最初に書いたもの。
しかし、ボツにしました。

まだ少し… ユジンの本当の心にたどり着けていない気がしたのです。
どうでしょうかね…。