「-出会い-   ~彼… カン・ジュンサン~」







(いったいどこまで来ちゃったんだろう…。)


私は、あたりを見回しながら不安になった。

すぐそばには湖が見える。

春川湖の方にまで来てしまったんだろうか…?


私は、そいつに言った。

「起こしてよ!」

こいつが起こしてくれさえすれば…。


私は、そいつをしげしげと見た。

見たことのない男の子…。

でも、同じ第一高校の生徒らしい。


「何年生なの?」


「…2年。」

そいつが答えた。

なんだ、同じ学年だ。


「カガメールが怖くないの?

 …あなたみたいな図太い人、初めてよ!」


ああ… 考えただけで憂鬱…。

また『遅刻魔』と言われるに決まってる…。

でも、まだ間に合うかも…。

私は、言った。


「早くタクシーに乗るわよ!」


こいつにタクシー代の半分は出してもらわなくっちゃ!

そいつは… 面倒臭そうに、ついてきた。



          *


タクシーはすぐにつかまった。

私たちは、一緒に乗り込んだ。


「…どちらまで?」

運転士が、助手席のそいつに聞いた。


「……。」

そいつは黙っている。

私は後部座席から言った。

「春川第一高校までお願いします!」


「……。」

そいつは、やはり黙ったままだった。


タクシーは、やがて見覚えのある道に入った。

やはり春川湖の方まで行ったらしい。


私は腕時計を見た。

何とか間に合うかもしれない…。

私は、ほっと安堵のためいきをついた。

その私の目に、料金メーターの数字が飛び込んできた。


(…! やられた!!)

とんでもない金額が表示されている。

私は、愕然としながらも、財布の中身をこっそり確認した。

だめだ…。

このぶんだと、こいつと割り勘にしたところで… お昼は抜きになるだろう…。

私は、泣きたい気持ちで、そいつを睨んだ。

そいつにも、私の殺気が伝わったのか… ちらりと振り返ると、すぐにうつむいていた。

(…?)

ん…? なんだか変なやつ…。

どうも… 笑っているらしい…。


…あ…。 私が財布を調べているのに気づいたのか!



そいつが急に運転士に言った。

「…すいません…。

 これだけ払いますから、もっと急いでください。」


そいつの手には、かなりの枚数の10000ウォン紙幣が握られていた。


「…お! …いいのかい? 坊や…。

 …じゃあ… 飛ばすぜ!」


私はそいつに言った。

「私は…いくら払えばいいの…?」

そいつは返事もしなかった。

黙ったまま、窓の外を眺めていた。


タクシーは、あっという間に学校の付近に着いた。


車内での、そいつとの気まずい雰囲気に耐えきれず、私はタクシーから降りると走り出した。


しかし… やはりそいつが気になった。


立ち止まって振り返ると、そいつはのんびりと…

電柱に寄りかかっている。

このままじゃ、せっかくのタクシー代も無駄になる…。


「…! ちょっと! 何してるのよ!」

そいつは、ゆっくりとポケットから一本の煙草を取り出すと、それに火を着けた。


(…うそ…! …煙草なんて…)


私は、辺りに先生たちがいないか見回した。

その心配をよそに、そいつは気持ちよさそうに空に向かって煙を吐いた。


(…! …もう!!)


私は、そいつのことは諦めて、校門に向かって走った。



…それが…


…あいつ…  彼…


 『カン・ジュンサン』との出会いだった…。



                           -了-


あとがき

特に述べることはありません。
こんな感じだったかな…なんて思っただけです。