「誓いの夜」




窓の外には、青くゲレンデがひろがっている。

ユジンは、瞳にその青さを映しながら、今日の結婚式を思い出していた。

自分とチュンサンを祝福してくれた人々の温かな言葉は、今こうして彼とふたりでいる幸福な時間を、優しく見守ってくれているのだ。

本当に…幸せ…。


フランスにいる時には、こんな日が来るとは思ってもいなかった。

ただ、彼との思い出を胸に抱いて、ひとりで生きていくことを誓っていた。

それでいいと…。


「…ユジン…。 何を考えているの…?」

シャワーから上がってきたチュンサンに、優しく抱きしめられた。

バスローブ越しに、彼の身体の温かさが伝わってくる。


「…チュンサン…。

 …私たち…  本当に結婚したのね…。」

ユジンがつぶやいた。

クスっと笑ったチュンサンが、その腕に力を込めてきた。

「…そうだよ…。

 …僕たち…  結婚したんだ…。」


「…もう… 離れることはないのよね?

 ずっと… いつまでも…。」

チュンサンが髪をなでている。

「…ああ… ずっと… 離れたりしないよ。

 もう二度と… 君を離しはしない…。」


「…約束よ。

 …本当に、約束して…。


 …誓って…


 …神様や、あの人達にではなく… 私に誓って。


 …私を、二度と…離さないと誓って!」

ユジンは、チュンサンの胸に顔を埋めた。


「…わかってる…。

 …二度と君を離さないよ。


 …約束だ。

 …僕… カン・ジュンサンは、チョン・ユジンの夫として…

 …何があろうとも、そのそばを離れないと… 生涯離れないと… 誓います。」


「…チュンサン…   うれしい…。」


「…ユジン…。

 …愛してるよ…。」


互いの唇が、永遠を誓う…。

互いの涙が、それぞれの心を結んでゆく…。


誰よりも… 愛しい人…。

あの日から… ずっと…心に決めていた人…。


「…チュンサン…。

 …もっと… もっと強く抱いて…。」


「…ユジン…。

 …ユジン…。 僕だけの… ユジン…。」


チュンサンは手探りで、壁のスイッチを消した。

部屋の灯りが消え、ふたりは同じ世界に入った。


「…チュンサン…。

 …私が見える…?」


「…ああ… 見えるよ…。

 …君は… 僕が見えるかい…?」


抱き合ったふたりは、ベッドの上で囁き合った。

「…ええ…。

 …あなたしか見えないわ…。」


「…僕もだ… ユジン…。」


ふたりの間には、もう何も隔たりはなかった。

互いの体温と… 吐息と… 髪の香り…


「……。」


「……!」


14年の時間が、今…ひとつに溶けあおうとしている。


(君が… 好きだった…。)


(あなたが… 好きだったの…。)



長い冬の後… 雪の下に静かに生き抜いてきた花が… 今、ようやく咲こうとしている…。


「…!  …チュンサン…!」


「…ユジン!」


熱い涙がふたりを薄紅色に染めていった…。



…愛の星が… 輝きながら、時を止める…。

…変わることのない… 永遠の時間…。

…ポラリスが、ここにある。


ふたりは、ひとつになった。



                        -了-



あとがき

これは『White Wedding ~14年目の結婚式~』の続編…です。
書くつもりもなかったのですが、「残り火」としておこうと思いまして…。

「冬の挿話」で書かなかったストーリーなども、「残り火」として書くかもしれません。
そんな作品たちを『冬の残り火』と題した書庫に入れることにしました。
あまり期待なさらないようにお願いいたします。